学校で生成AIを利用する際のガイドライン
文部科学省は、生成AIが社会に急速に普及しつつあることから、2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表。学校で生成AIを利用する際の方針を示している。その中では、著作権保護の観点での留意点についても記載があり、「各学校において、著作物の利用に関する正しい理解に基づいた対応が必要」としている。
具体的には、
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他人の著作物について、複製権や公衆送信権などの対象となる利用(複製やアップロード)を行う際には原則として著作権者の許諾が必要。
- ただし、学校の授業では著作権法第35条により、著作権者の許諾がなくても著作物の複製や公衆送信ができる場合がある。
- AIを利用して生成した文章等を利用する場合も、既存の著作物に係る権利を侵害することのないように留意する必要がある。
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生成物に他人の著作物との類似性(創作的表現が同一または類似している)および依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)がある場合は著作権侵害となり得る。
- 先述の著作権法第35条により、教員や児童生徒が生成AIを利用して出力したものが既存の著作物と同一または類似のものであっても、学校の授業の範囲内で利用することは可能。
- 一方で、一般向けのWebページに掲載することや、外部のコンテストに作品として提出するなど、授業目的の範囲を超えて利用する場合は著作権者の許諾が必要。
といったことが記載されている。
昨今、学校の内外で児童生徒がインターネットを利用し発信する機会が増加しており、著作権に注意を払うべきシーンも増えている。学校の授業で生成AIを扱う場合にも、上記の留意点を踏まえながら著作権を学ぶことが重要となる。
生成AIと著作権を取り巻く現状
続いて、現時点での生成AIにおける著作権の状況を、文化庁が2023年6月に公開した資料「AIと著作権」をもとにもう少し詳しく整理する。
著作権法30条の4では、AI開発・学習段階において「著作物を学習用データとして収集・複製し、学習用データセットを作成」すること、「データセットを学習に利用して、AI(学習済みモデル)を開発」することについては、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」として「原則として著作権者の許諾なく行うことが可能」とされている。
一方で、ただし書には「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」との記載もあり、該当する場合は著作権を侵害していることになる。
このただし書については、生成AIが普及した現状に合わせて適用範囲をより明確にするため、1月15日に開催された「文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第6回)」にて「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が提示された。この中では、特定のクリエイターの作品をまねた生成物を出力する目的でそのクリエイターの作品を集中的に学習させることや、AI学習を制限するための何らかの技術的な措置を講じた著作物を学習させることは、著作権を侵害する可能性があると記載されている。なお、文化庁はこの素案について、1月23日から2月12日まで一般から意見を募集している。
子どもたちが著作権について実感を持つことが重要
このように、生成AIと著作権の関係については現在も議論が行われており、法律面だけでなく倫理面での問題を指摘する意見もある。特にクリエイターからは、苦心して作り上げた作品を無断で対価なく学習されることに抵抗を感じる声も上がっている。将来の夢がクリエイターという子どももいる中で、学校はこの状況にどう向き合えばよいのか。
今度氏は「本当に難しい問題」とした上で、著作権そのものについて子どもたち自身が実感を持ち、考えることの重要性を指摘する。今度氏が小学生向けに実施している授業では「図工で作った自分の作品を、ほかの人にどのように扱ってもらいたいか」を児童自身が考えるという。そこではさまざまな意見が上がり、「自由に触っていい」と言う児童もいれば「触るのはもちろん写真も撮ってほしくない」「そもそも人に見せたくない」と話す児童もいるそうだ。こうした体験を経た上で、今度氏は「『自分の作品をどう扱ってほしいか』は一人ひとり違う。だから作った人に確かめないとわからないよね。それが著作権の考え方。確かめないで扱うことは、作った人に敬意を示していないことになるんだよ」と児童に話している。
「作り手は作品に敬意を持ってほしいからこそ『こう扱ってほしい』と考えます。著作権では『作り手は作品をどのような思いや願いで作ったか』が大事ですが、それは人それぞれ違う。思いや願いは本人に聞かなければわからないから、使うときは許諾(きょだく)をとらなければいけないのだと子どもたちに伝えています」(今度氏)
この授業を通して、子どもたちは著作権だけでなく「人が嫌がることは自分が嫌なこととは違うかもしれない」という倫理面についても考えることができる。これは、生成AIについても「学習されたくない」というクリエイターの思いをどう受け止めるのかということにもつながり、生成AIに対してどのように向き合うのか、子どもたち自身が考えを深める機会にもなるだろう。