新学習指導要領時代における学校の在り方の革新を目指したもので、多久市は実施背景として、平成28年度の総務省「先導的教育システム実証事業」において、同じく2社と連携して行った取り組みで有効性が確認できたことと、社会問題となっている教職員の多忙化の解決の2つを挙げた。
前段の実証事業では、多久市立東原庠舎中央校(当時は「多久市立中央小中学校」)の全5年生を対象に、クラウドソリューションのみで運用されている教育システムの活用をタブレット端末で行った。児童が多久市についての取材を行い、「PowerPoint Mobile」でリアルタイムに発表資料を協働編集したり、未来の多久市として「Skype for Business」で市長宛にプレゼンテーションを行ったりした(参考記事)。
今回のプロジェクトでは、パブリッククラウドを利用した学校ICT環境の整備、最先端のセキュリティ対策に加え、児童生徒の学び方と教職員の働き方改革に取り組んでいく。ソフトバンクC&Sと日本マイクロソフトは、校務・教務クラウドシステムとプロジェクト推進に関する技術的なサポートを提供する。
協働学習による学びあい、児童生徒の学び方改革
多久市は、横尾俊彦市長が全国ICT教育首長評議会の会長を務めていたり、平成21年度に佐賀県で最初に小中学校の全校普通教室へ電子黒板を設置するなど、教育現場でのICT活用に意欲的な地域。
横尾市長は、ICT教育の目標を「個性や特性を伸ばすことで、成長過程で遭遇する様々な出来事を、子どもたちが自らの熱意と努力で解決できるようにする」と説明する。
土地柄として孔子の教えが根付く多久市では、人を思いやる「恕(じょ)」の心を大事にしており、児童生徒が自分で考え、周囲の考えに耳を傾けて、答えを導きだしたり、考えが異なる相手にもスムーズに自分の考えを伝えたりする力を身に着けさせる「学びあい」を、学び方改革で重視している。その実現のため、ICTを利活用した協働学習をより多くの授業で実施する必要があると考えた。
多久市では、校務・教務クラウドシステムとしてソフトバンクC&Sのクラウド運用サービス、マイクロソフトの教育機関向けクラウドサービス「Microsoft 365 Education」を採用し、市内の義務教育学校全3校(多久市立東原庠舎中央校、多久市立東原庠舎東部校、多久市立東原庠舎西渓校)にタブレット端末を整備し(平成29年度時点で計190台)、授業の8割で協働学習を実施することを目指す。
日本の自治体で「Microsoft 365 Education」が導入されたのは多久市が初となる。日本マイクロソフトが、デジタルトランスフォーメーションを推進する上で中核をなすクラウドソリューションであり、対象ユーザーによって機能の差異はあるものの、安心して利用するためのセキュリティや管理機能は共通となっており、従来は大企業のみが使えた最新機能を教育機関でも使うことができる。
多久市教育委員会 教育長の田原優子氏は、現代を「変化を感じ取り学び続ける力がないと将来自己実現ができない時代」だとし、タブレットを「社会の情報をリアルタイムに入手し、考えを深め、伝えるためのツール」として活用することで、子どもたちに学び方を身につけさせたい考えだ。
具体的な目標としては、「全国学力・学習状況調査(文部科学省)の意識調査における自己肯定感の項目を高めたい」「学力調査でも全国平均を上回りたい」と述べた。