水に関連した目標を達成するアイデアをプロジェクトに
ダッソー・システムズが開催した「DX Hackathon 2021」は、同社が2019年より開催している学生向けのハッカソン(ハックとマラソンからの造語で、短期間で集中してソフトウェア開発を行いアイデアや成果を競うイベント)。毎年決められたテーマに対して学生が解決策を考え、最終日にプレゼンを行う。
3回目となる今回は初のフルリモートでの開催となった。参加者は過去最高の30人で、5人1チーム、合計6チームに分かれて取り組んだ。ハッカソンではあるが、留学生や文系学生も多数参加した。
今年の課題は「水」――国際連合の「持続可能な目標(SDGs)」の一つである「安全な水とトイレを世界中に」の目標達成に向け、各チームに水が関連する課題とその解決策を考えてもらった。その過程で、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCE」などのソリューションを用いることも条件となっている。3DEXPERIENCEは設計、製造など開発プロセスを支援する機能を備えたダッソーのスイートで、クラウドで提供されている。
学生たちは7月にチーム別でキックオフコールを開催、その後3DEXPERIENCEのオンライントレーニングとチーム作業を進めた。各チームにはダッソーの社員がついて、ツールの使い方の支援からプロジェクトの伴走と助言などのサポートを行った。
最終プレゼンは9月末にオンラインで行われた。各チームの持ち時間は15分。
審査員は、Elastic Technical Product Marketing Manager/Evangelistおよびデジタル庁プロジェクトマネージャーの鈴木章太郎氏、情報経営イノベーション専門職大学教授の阿部川久広氏、経済産業省教育産業室長の浅野大介氏、在日フランス大使館科学技術参事官のDidier Marty-Dessus(ディディエ・マルティ=ドシュ)氏の4人。SDGsへのインパクト、独創性、革新性、デジタルトランスフォーメーションのレベル、そしてダッソーのテクノロジーの活用性、チームワークなどの視点から最優秀チーム賞、優秀チーム賞、特別チーム賞、それに個人賞5人を選んだ。
チーム賞の賞金として最優秀チームには25万円、優秀チームには15万円、特別チームには10万円が贈られる。個人賞には10万円(それぞれ相当するAmazonバウチャー)が贈られるほか、ダッソーでの3か月のインターンシップなどの機会も得られる。
最優秀賞は海洋を居住エリアにする「Mizekai」
最優秀チーム賞に選ばれたのは、「Mizekai」(水の世界)というプロジェクト名で、人が長く居住できる水中建築物をデザインしたチーム3だ。
アジアでは、2030年までに12.2%人口が増加して45億人になると予想されている一方で、地球温暖化による海面上昇のために1500万人が影響をうけると見られている。「海は、使われていない最大の居住エリア、水の中で居住する準備が必要」とプロジェクトチームはいう。
デザインしたのは、海岸から15キロほど離れた沖合での設置を想定し、水面の上と下(水深100メートル)にまたがる建築物だ。”Spine”(脊椎)と呼ぶ中心部に、機能ごとに分かれたモジュールがドッキングする構造で、Spineから各モジュールへ電力などの供給が行われる。
モジュールとしては、ホテル・居住、スポーツやショッピングなどの施設ももつリクリエーション、水面上の太陽光と水面下での人工照明により農作物を栽培できる農業を紹介した。モジュール構造を取ることで、最小のフットプリント(面積)にし、拡張性を高めることができると考えた。
設計にあたって、水圧に耐えられるかなどのシミュレーションだけでなく、コラボレーション、プレゼンなど、ダッソーの製品群をフル活用した。
これにより、「住み続けられるまちづくりを」「産業と技術革新の基盤を作ろう」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」と4つのSDGs目標を達成できるという。
ダッソーの代表取締役社長を務めるPhilippe Godbou(フィリップ・ゴドブ)氏は、最優秀チームに対して、「複雑なテーマに対して、素晴らしいソリューションを提案した」と賛辞を送った。
チームメンバーの一人であるZhihui Bao氏は、中国出身で青山学院大学 経営学研究科 経営学専攻で未来戦略デザイン・システムクリエーターの育成を研究している。研究所のメンバーからこのプログラムを知って応募したという。海洋工学の知識や物理的シミュレーションの経験がなかったため、地震に関する論文を含めて調査を行ったそうだ。プロジェクトでは、「異なる背景を持つ人がいたことでさまざまなアイデアが生まれた」と振り返るが、「出てきたアイデアの中から棚上げしたものもあり、モチベーションを維持してもらうこと」と苦労したことの一つに挙げた。リモートでプロジェクトを進めたが、オンライン飲み会などを通じて関係を深化させて行ったという。