イギリスでは5歳からプログラミング授業を採用
基調講演に登壇したのは、イギリスのプリモトイズ CEO兼共同創業者のフィリッポ・ヤコブ氏。プログラミング教育の先進国といわれるイギリスでは、2014年から「Computing」というプログラミング学習の教科が、5歳から16歳までのカリキュラムに採用されている。こうした背景を受け、ヤコブ氏は常に20年先の未来を想像し、商品やサービスを開発している。
「これからの時代の産業――例えばロボット工学や遺伝子工学、デジタル化された金融サービス、サイバーセキュリティ、データ分析にとって、必要なスキルがあります。『21世紀型スキル』と呼ばれるもので、コンピュータープログラミングやデータの収集能力、異文化コミュニケーション能力などが当てはまります。これらはとても基本的なスキルです。そのためなるべく早く、幼児期に読み書きや数字を覚えるのと同じタイミングで習得することが望ましいでしょう」
このようにヤコブ氏は、変化の速い21世紀に必要なスキルを獲得するため、3歳から6歳までの早期教育も必要だという考えを示した。
そこでプリモトイズでは、幼児期から自然に学習できるシステムとして、スクリーンを使わない学習システム「キュベット」を開発した。木製ロボットのキュベットは、モンテッソーリ教育などの概念も取り入れ、手や身体を使うように設計されている。
キュベットは5つの特徴を備えているとヤコブ氏は話す。1つ目は、木製で友だちのようなロボットであること。このロボットは、自分から動くことはなく、指示を受けることによって初めて動かすことができる。2つ目はロボットについているパネル部分。PCのキーボードに該当するもので、3つ目の特徴であるカラフルなブロックを組み合わせてパネルにはめ込むことで、コーディングの概念を学ぶことができる。
4つ目はロボットと地図を組み合わせることで、いろいろな物語を作りだすことが可能であること。さらに5つ目の特徴として、学習が進展していくと、より難しい指示が出せるようになることを挙げている。キュベットは3歳からの幼児を対象にしているが、小学生以上でも楽しく遊べる工夫が凝らされている。
ヤコブ氏は開発の大きな目的として、国や言語、性別も関係なく、容易にプログラミングの概念を教えられる手段を作りたかったと話す。開発者のそういった願いが込められたキュベットのデザインには、文字が一切使われておらず、直感的な操作が可能になっている。これまで100カ国で、100万人もの子どもたちがキュベットに触れてきた。
「遊びのなかでストーリーを組み込みながら、プログラミングの基本的な概念を理解できるキュベットは、2020年から始まる小学校におけるプログラミング授業にも適しています」とアピールしたうえで、より多くの子どもたちにキュベットを通じて学んでほしいと、ヤコブ氏は参加者に語った。
未就学児向けのプログラミング教材も続々登場
続いて行われたワークショップでは、未就学児向けのプログラミング教材として、「キュベット」のほか、「Viscuit(ビスケット)」や「Ozobot(オゾボット)」の遊び方や活用事例などがデモを交えて紹介された。
キュベット
まず、プリモトイズ日本販売総代理店 キャンドルウィック株式会社の橋爪薫氏が、キュベットとマップを使い、参加者とともに体験型ワークショップを行った。キュベットの操作はシンプルで、「前に進む」「左に向く」「右に向く」といった命令を意味する色のブロックを、手元のパネルにはめ込んでいく。マップ上の3つ先のマス目に進めるだけの操作でも、すべての動きを分解する必要があり、どのように指示すれば目的地までたどり着くか考えることは、まさにプログラミングの概念そのものである。
例えば「海の中にはどんな生き物がいるか」といったストーリーを作れば、小学校の理科の授業にも応用できる。教員がストーリーを作り、それに沿った地図を用意すれば、学校でもさまざまな教科でキュベットを活用していくことができそうだ。
Viscuit
次に、全国のワークショップなどにも採用されているビジュアルプログラミング言語「Viscuit」の解説を、開発者である原田康徳氏が行った。
Viscuitでの遊び方の一例として、「健康な人が風邪をひいている人と接触すると、風邪が感染する」というデモが紹介されると、会場から笑い声があがった。
さらに、原田氏は幼児向けのプログラミング教育にViscuitを導入している事例として、神奈川県にある香川富士見丘幼稚園を紹介した。この幼稚園では、2015年からプログラミング教育を取り入れている。現在は5~6歳の年長クラスを対象に、月に2回Viscuitの授業を行っているほか、卒園生や近隣の小学生向けに、Viscuitのワークショップも開催しているという。
Ozobot
ワークショップの最後には、キャスタリア株式会社の山脇智志氏による「Ozobot」の紹介が行われた。
Ozobotは、手のひらに乗るほどの小さなマイクロロボットで、紙やタブレット上の線をなぞりながら動く「ライントレース」機能を備えている。さらに、内蔵のカラーセンサーによって、色をコードとして認識する。PCやタブレットがなくても、紙とペンさえあればOzobotを動かすことができるため、いわゆる「アンプラグド」と呼ばれるプログラミング学習が可能になる。
開発元のEvollve Inc.があるアメリカ国内では推奨年齢6歳以上とされているが、日本で開催しているワークショップには未就学児も訪れ、親子で楽しんでいるという。
「幼児向けのアプローチとしては、例えば動物や虫のOzobot用カバーを工作してかぶせれば、Ozobotはロボットから『別のもの』に変わるのです。紙や布など身近なものでカバーを制作することで、子どもの興味をぐっと引き付けることができます」と、山脇氏は活用例を紹介した。そのほか、音楽に合わせてダンスをしたり、LEDの発色を変えたりするといった多彩な遊びができるOzobotは、全国の学校の授業やワークショップにも採用されている。