独自性の高い「コンテンツ」を人に伝える「デザイン力」が必須の教養に
講演の中では、北海道大学大学院で実際に「デジタルクリエイティブ基礎」を受講した学生へのインタビュービデオも流された。学生からは「本来であれば、別途教室に通ったり、独学したりする必要があったデジタルクリエイティブについて、大学の講義として学べるのはうれしい」「自分の研究成果に関心を持ってもらうための技術として、図表や映像を使った表現を学べることに意義を感じている」「以前は、デザインなんて得意な人ができれば良いものだと思っていたが、講座を受けてみて、そうではないことが理解できた」「人間が、自分の思いを伝えるために身ぶり手ぶりを使うのと同じように、これからは技術やデザインツールを使いこなす時代になっていくと思う」といった感想が聞かれた。受講生からは、大学院では“研究成果だけ出せれば良い”という考えが多い傾向の中、実社会では専門性を持ちながらも、それを相手に伝えるための技術やデザイン性も重要であり、それらが大学院で単位認定される一般教養科目として学べるため、講座の内容は非常に好評のようだ。
加藤氏はセッションのまとめとして、改めて今後の高度職業人材に求められる「専門性と統合性」について説明した。大学院で学んだ人材の強みは「専門性」を持っていることである。そして、この専門性は独自性の高いコンテンツを生み出すために必要な能力でもある。その上で、そのコンテンツを一般に受け入れてもらうためには、他者を知り、さまざまなスキルを駆使して、そのコンテンツを「あるべき姿」に形作っていく必要がある。「教育深化プログラム」の目指すところは、学生が自らの専門性を核として生み出したコンテンツを他者に伝え、「意外な展開や新たなつながりを生み出す」ために「デザイン」を行う、さまざまな知識とスキルを一身に統合するところにあるという。
加藤氏は、「専門性に基づく優れたコンテンツを必要条件としながら、これからは見せ方、伝え方、語り方などを構成するスキルとしてのデザイン力、デザインマインドが社会のあらゆる場面で求められるようになっていく。教育深化プログラムは、文系大学院で先行して展開しているが、今後は理系も含め大学院教育全体への展開を視野に入れている」と述べてセッションを締めくくった。
講演終了後に、視聴者からオンラインで寄せられた「大学院は『専門を究める場」であり、教養は学部で身につけるものだという意識があったので、大学院での『教養深化プログラム』は意外に感じた」というコメントに対し、加藤氏は「学部で教える教養は、学問の世界に触れるための前提知識としての意味合いが大きい。これまで、大学院では教養を『学部で身につけたもの』として教えてこなかった。しかし、これからの社会で広く活躍できる人物を育成することを考えた場合、さまざまなことに関心を持ち、専門外のことについて『深く知らなくても広く知っている』必要性が高まっていることが、大学院で教養を学ぶプログラムを提供することの意義だと考えている」と述べた。