北大大学院「教養深化プログラム」開発の背景と狙い
加藤氏は北海道大学大学院で「教養深化プログラム」を開始した背景として、現在の社会状況を挙げる。日本政府は、大学院において学ぶ学生を「高度専門職業人(以下、高度職業人材)」と位置付け、修了後、社会の多様な領域で活躍してほしいと希望している一方、大学院修士課程に入学する学生数は2000年以降横ばいが続いており、博士課程についても2003年以降は微減の傾向にある。こうした傾向は、大学院進学者が増加傾向にある他の先進諸国とは対照的だという。
高等教育機関である大学院として、社会に求められ、活躍できる高度人材を育成できる仕組みの必要性を感じたことが「教養深化プログラム」開発の契機になったという。
「従来、大学院を修了した人のキャリアパスは、企業の研究所やポスドクといったものがほとんどだった。文系大学院であれば、さらに選択肢は限られる。今後、修士や博士といった学位を取得した人材が、研究者、ポスドクだけでなく、教員、官公庁、民間企業、あるいは起業といったさまざまな形で活躍の場を広げられるパスを作りたいという思いから、教育深化プログラムの提供に至った」(加藤氏)
「社会で活躍できる人材の育成」を考える際には、人材に対する「評価軸」が、学会と社会とで異なっていることを考慮する必要がある。学会では、専門分野における研究成果が唯一の評価対象となるのに対し、一般社会では「過去のキャリア」だけでなく、より幅広い分野の「知識」や「スキル」を求める傾向がある。
例えば、人から話を聞いたり、情報を引き出したりといった「コミュニケーション能力」、専門分野のみにとどまらない幅広い「教養」、デジタルリテラシー、数理学的リテラシー、そして「デザイン力」のような「実務能力」といったものだ。高度職業人材にとっては、各人の専門分野に関する深い知識や洞察に加えて、こうした幅広い領域での知識とスキルを合わせ持つことが、「即戦力」として社会に出ていく上で必要になるという。
こうした状況を背景に、北海道大学大学院文学研究院の「教養深化プログラム」では、
- 幅広い人文社会的教養への扉をひらく
- 現場での対応力を高める
- 数理学的リテラシーの基礎を身につける
- 情報の高度な扱い方を習得する
- デザインの発想と表現設計センスを磨く
- 社会適合スキルを高める
- 文系的マインドを養う
といったことを主眼に置いた、多様な講座が開講されている。