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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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「Adobe Education Forum Online 2020」イベントレポート(AD)

北海道大学大学院の事例から学ぶ、これからの高等教育機関が専門性に加えて育成すべきものとは?

「Adobe Education Forum Online 2020」セッションレポート

 アドビは、2020年8月4~6日の3日間、教育関係者向けのオンラインイベント「Adobe Education Forum Online 2020」を開催した。2日目の8月5日に「高度な伝達能力のためのコンテンツとデザイン」と題した講演を行ったのは、北海道大学 大学院 文学研究院の加藤重広教授だ。同学の大学院では、2019年より「教養深化プログラム」と呼ばれるカリキュラムを展開している。このセッションでは、「教養深化プログラム」を大学院で展開する意図や背景、そこに含まれる「デジタルクリエイティブ基礎」という開講講座の具体的な内容について紹介が行われた。

「Adobe Education Forum Online 2020」2日目アーカイブ動画

北大大学院「教養深化プログラム」開発の背景と狙い

 加藤氏は北海道大学大学院で「教養深化プログラム」を開始した背景として、現在の社会状況を挙げる。日本政府は、大学院において学ぶ学生を「高度専門職業人(以下、高度職業人材)」と位置付け、修了後、社会の多様な領域で活躍してほしいと希望している一方、大学院修士課程に入学する学生数は2000年以降横ばいが続いており、博士課程についても2003年以降は微減の傾向にある。こうした傾向は、大学院進学者が増加傾向にある他の先進諸国とは対照的だという。

 高等教育機関である大学院として、社会に求められ、活躍できる高度人材を育成できる仕組みの必要性を感じたことが「教養深化プログラム」開発の契機になったという。

 「従来、大学院を修了した人のキャリアパスは、企業の研究所やポスドクといったものがほとんどだった。文系大学院であれば、さらに選択肢は限られる。今後、修士や博士といった学位を取得した人材が、研究者、ポスドクだけでなく、教員、官公庁、民間企業、あるいは起業といったさまざまな形で活躍の場を広げられるパスを作りたいという思いから、教育深化プログラムの提供に至った」(加藤氏)

 「社会で活躍できる人材の育成」を考える際には、人材に対する「評価軸」が、学会と社会とで異なっていることを考慮する必要がある。学会では、専門分野における研究成果が唯一の評価対象となるのに対し、一般社会では「過去のキャリア」だけでなく、より幅広い分野の「知識」や「スキル」を求める傾向がある。

 例えば、人から話を聞いたり、情報を引き出したりといった「コミュニケーション能力」、専門分野のみにとどまらない幅広い「教養」、デジタルリテラシー、数理学的リテラシー、そして「デザイン力」のような「実務能力」といったものだ。高度職業人材にとっては、各人の専門分野に関する深い知識や洞察に加えて、こうした幅広い領域での知識とスキルを合わせ持つことが、「即戦力」として社会に出ていく上で必要になるという。

 こうした状況を背景に、北海道大学大学院文学研究院の「教養深化プログラム」では、

  • 幅広い人文社会的教養への扉をひらく
  • 現場での対応力を高める
  • 数理学的リテラシーの基礎を身につける
  • 情報の高度な扱い方を習得する
  • デザインの発想と表現設計センスを磨く
  • 社会適合スキルを高める
  • 文系的マインドを養う

といったことを主眼に置いた、多様な講座が開講されている。

重要性が増す「デザイン力」を身につける「デジタルクリエイティブ基礎」講座

 「教養深化プログラム」の中で、特に「デザインの発想と表現設計のセンスを磨く」ための講座として設置されているのが「デジタルクリエイティブ基礎」(DC基礎)と呼ばれるカリキュラムだ。

 加藤氏は、教養深化プログラムにおける「デザイン」の概念を「意図的に情報の伝わり方、伝え方を制御すること」「構成を決めること、設計すること」だと広く定義する。情報の伝達と理解に費やせる各人のリソースが限られている現在では、相手に自分の意図を「理解してもらう」にあたって、「伝えるべき情報に優先順位をつけて効率的な受容を誘導せざるを得ない」とする。こうした「相手に理解してもらうために、伝える情報や伝え方を制御できるスキル」こそが「デザイン力」だ。

 「現代はデザインが求められる時代であり、大学院を修了した人材が社会の中で活躍していくにあたっても、デザイン力は必須のスキルとなっている」(加藤氏)

 北海道大学大学院での「デジタルクリエイティブ基礎」講座は、アドビのサポートによって開講されている。アドビでは、2018年に筑波大学向けに同講座のカリキュラムを開発。アドビが講師を派遣し、学生たちがビジュアル表現を学ぶ授業だ。これまでの約3年で、筑波大学のほか、千葉大学、山形大学、横浜国立大学などで単位認定される一般教養科目として開講してきた実績がある(事例一覧)。さらにその発展形として、オンラインで同講座の内容を授業化できるオンラインパッケージ版の提供を開始することがEducation Forum 3日目にアドビから発表された。

 初年度からカリキュラムの開発と教材制作、授業にあたってきたアドビの担当者は、様々な企業の制作現場のコンサルティングに携わってきた経歴を持ち、大学での授業が実社会とつながる内容となることを意図したという。

 アドビ、教育市場部部長の小池晴子氏は、大学の一般教養課程に「デジタルクリエイティブ基礎」を含めることの意義について「カリキュラムの開発当時は、小学校でのプログラミング教育に注目が集まっていた時期でもあり、それに対して大学での情報教育は、もう一歩進んだITリテラシーを育てる必要があるのではないかという問題意識があった。大学生活後半の専門課程へ進んでいった際に、自分が取り組んでいる研究の内容や価値を、他の人により理解してもらいやすい形にデザインして伝えられること、クリエイティブツールを使って情報をデザインできるスキルを身につけておくことが大切だと考えた」と説明する。

 デジタルクリエイティブ基礎講座は、「ビジュアル表現」「画像処理」「タイポグラフィー」「映像制作」の4部から構成されており、それぞれについて、情報デザインに関しての理解を深める「講義」と、Adobe Creative Cloudのツール群(Photoshop、Illustrator、InDesign、Premiere Rush等)の使い方を学ぶ「演習」とがセットで展開される。これは、単なるツールの使い方だけにとどまらず、クリエイティブツールを活用して自分のアイデアや考え方を見える化し、相手に伝える技術やその重要性を体系的に学べる構成となっている。

 北海道大学では、大学院向けの講座として各部2コマ×4回の全8コマで修了できるようになっている。同学では全教員に加えて、院生も、全員が自分のPCにAdobe Creative Cloudをインストールして講座を受講できるよう、教育機関向け包括契約の学生オプションを導入しているという。

 加藤氏は「教室だけでなく、自分のPCでツールが使えれば、学生は講座以外の時間にもそれを使って多くのことを理解し、さまざまな工夫を行うようになる。教育効果はより高い」とする。また、今回のコロナ禍のように、キャンパスに集まっての講義が難しい状況下において、学生が自宅のPCからクリエイティブツールを利用できる環境を用意しておくことは、授業継続の観点からもメリットがある。

独自性の高い「コンテンツ」を人に伝える「デザイン力」が必須の教養に

 講演の中では、北海道大学大学院で実際に「デジタルクリエイティブ基礎」を受講した学生へのインタビュービデオも流された。学生からは「本来であれば、別途教室に通ったり、独学したりする必要があったデジタルクリエイティブについて、大学の講義として学べるのはうれしい」「自分の研究成果に関心を持ってもらうための技術として、図表や映像を使った表現を学べることに意義を感じている」「以前は、デザインなんて得意な人ができれば良いものだと思っていたが、講座を受けてみて、そうではないことが理解できた」「人間が、自分の思いを伝えるために身ぶり手ぶりを使うのと同じように、これからは技術やデザインツールを使いこなす時代になっていくと思う」といった感想が聞かれた。受講生からは、大学院では“研究成果だけ出せれば良い”という考えが多い傾向の中、実社会では専門性を持ちながらも、それを相手に伝えるための技術やデザイン性も重要であり、それらが大学院で単位認定される一般教養科目として学べるため、講座の内容は非常に好評のようだ。

 加藤氏はセッションのまとめとして、改めて今後の高度職業人材に求められる「専門性と統合性」について説明した。大学院で学んだ人材の強みは「専門性」を持っていることである。そして、この専門性は独自性の高いコンテンツを生み出すために必要な能力でもある。その上で、そのコンテンツを一般に受け入れてもらうためには、他者を知り、さまざまなスキルを駆使して、そのコンテンツを「あるべき姿」に形作っていく必要がある。「教育深化プログラム」の目指すところは、学生が自らの専門性を核として生み出したコンテンツを他者に伝え、「意外な展開や新たなつながりを生み出す」ために「デザイン」を行う、さまざまな知識とスキルを一身に統合するところにあるという。

 加藤氏は、「専門性に基づく優れたコンテンツを必要条件としながら、これからは見せ方、伝え方、語り方などを構成するスキルとしてのデザイン力、デザインマインドが社会のあらゆる場面で求められるようになっていく。教育深化プログラムは、文系大学院で先行して展開しているが、今後は理系も含め大学院教育全体への展開を視野に入れている」と述べてセッションを締めくくった。

 講演終了後に、視聴者からオンラインで寄せられた「大学院は『専門を究める場」であり、教養は学部で身につけるものだという意識があったので、大学院での『教養深化プログラム』は意外に感じた」というコメントに対し、加藤氏は「学部で教える教養は、学問の世界に触れるための前提知識としての意味合いが大きい。これまで、大学院では教養を『学部で身につけたもの』として教えてこなかった。しかし、これからの社会で広く活躍できる人物を育成することを考えた場合、さまざまなことに関心を持ち、専門外のことについて『深く知らなくても広く知っている』必要性が高まっていることが、大学院で教養を学ぶプログラムを提供することの意義だと考えている」と述べた。

参考情報

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://edtechzine.jp/article/detail/4318 2020/08/28 07:00

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