なぜIT企業がプログラミング教育に取り組むのか?
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)という会社をご存じでしょうか? 今年創業21年となる会社で、ゲーム、スポーツ、ヘルスケア、エンタメなどのさまざまなサービスを手掛けている日本のIT企業です。
私たちがプログラミング教育に取り組むきっかけは、2014年に佐賀県の武雄市が市内の小学生に1人1台PCを導入したことでした。低学年向けにPCを使って何かできないかということで、1年生からプログラミング教育をすることが決まりました。武雄市をきっかけに、CSR活動として、これまで学校の授業や体験イベントなどで7000人以上にプログラミング授業を提供しています。
どうして低学年から?
私たちが取り組みはじめた当時はまだ、プログラミング教育の必修化は決まっていませんでした。ではなぜ、低学年からプログラミング教育を行ったかというと、IT企業として、未来を担う子どもたちに貢献する必要性を強く感じたからです。
AIなどのIT技術が更に進化し、より変化の大きい時代を生き抜いていくことになる子どもたちは、一般的な「正解」を上手に答えられる人ではなく「自ら考え、モノやコトを作り出せる」人になる必要があると私たちは考えます。ハサミやノリなどを用いて工作するのと同じように、プログラミングで自分たちの思い描くことを表現できるようになれば、プログラミングはこれからの子どもたちの将来の強い味方になってくれるはずです。
そのためには、創造力の豊かな低学年のうちからプログラミングを使い、原体験として“作り出す”体験をしてほしいと考え、低学年からのプログラミング教育を推進しています。
小学校の教室から生まれ、作りやすさにこだわった「プログラミングゼミ」
2014年に武雄市の小学校1校でプログラミング教育が始まりました。取り組み開始当時からDeNAは自社開発したアプリ「プログラミングゼミ」を使っています。学校の環境や1年生から使うことを考えると、自社で制作したほうが柔軟に対応しやすいと考えたためです。
例えば、プログラミングで動かすキャラクターですが、プログラミングゼミの中にはすでに用意されたイラストや、お絵描きツールは入っていません。すでにあるものから選んで作るとなると表現に制約がかかりますし、お絵描きツールで絵を描くことを教える時間もとれない。
そこで私たちが出した答えは、子どもたちが紙に描いた絵を端末で写真撮影し取り込み、周辺の画像を消してキャラクターとして使用するというものでした。子どもたちになじみのあるクレヨンや絵の具で描くことができるし、使用できる絵も限られません。図工で描いた絵もそのまま素材として使えます。何より自分の描いた絵が動きだした感動はとても大きく、子どもたちは、「キャー!動いた!先生、絵が動いたよ!」と目をキラキラさせて熱中していきます。
また、私は開発もしながら小学校の授業にゲスト講師として参加しています。コードは分かりやすくひらがなにする、ヒントは手順ごとに短く切るなど先生の意見を聞いたり、実際に子どもたちが使用している姿を見て、ボタン配置を修正したりといった改善を続けています。とにかくプログラミング以外の本質的でない部分で子どもたちが躓かないように、使用感にこだわっています。プログラミングゼミは多くの子どもたちに利用してほしいという想いから、無料公開をしています。
横浜市では5年目、プログラミングコンテストを開催
横浜市内では2015年に1校から「プログラミングゼミ」を使った取り組みを開始して、5年がたちました。現在では横浜市内の全ての公立小学校の端末からプログラミングゼミを利用することができます。
2019年度には、横浜市教育委員会と共催で、「プログラミングゼミ キッズクリエイターコンテスト YOKOHAMA」と題したコンテストを行いました。個人低学年、個人高学年、団体の3部門で募集し、全194作品の創意あふれる作品が応募されました。応募作品には、傾きセンサーを利用したシューティングゲーム、学校付近の名所を紹介するアプリケーションなど、さまざまなスタイルの作品が応募されました。
その時に審査員を驚かせたのは小学校低学年の児童たちの作品でした。低学年でも高いプログラミングの技術にも驚きましたが、何より作品の着想がユニークで面白く、「本当に低学年の作品なのか?」と話す審査員もいたほどです。