クリエイティブの“過程”こそがクリエイティブな学びの経験に
動画の作成・編集は楽しみながらスムーズに進められたというが、濾過器の作成と、水不足を課題としている国々の状況把握は少なからず苦労もあった。「机上の空論にならないよう、現場の状況に合わせた解決策を考える必要があるのではないか」という鈴木教諭のアドバイスのもと、水問題を抱える国の文化や経済状況などを調べるなど、バックグラウンドの理解から行った。
施策のポイントとなったのが、濾過器の実現可能性だ。濾過器自体はいくらでも世の中にあるが、水不足が課題となっている国で現地の人々が自ら調達し、使いこなせるものでなければ意味がない。そこで比較的手に入れやすい材料を調べ、それらの材料で作る濾過器の設計図を作成した。さらに使い勝手を検証するために、実際に公園で石を拾い、活性炭を砕いて濾過器を作成し、濾過の実験を行った。その試行錯誤の様子は動画でも紹介されているが、何度も繰り返すうちに最も適した石、活性炭の量、材料を入れる順番などを編みだすことができたという。
「インターネットで調べ物をしていて、活性炭の原材料にヤシの実の内果皮が多く使われているということを知ったときは、あまりの衝撃に2人でカフェで叫びそうになりました。水不足で悩んでいる地域は暖かいところが多く、ヤシの実ならば現地で調達が可能じゃないかと思いました」と、生徒たちは貴重な情報を見つけ出した喜びを表現する。
さらに識字率を意識して多言語やイラストで対応したのも、大きな工夫のポイントと言えるだろう。濾過器の作り方や使い方を記した紙に、英語だけでなくアフリカの公用語であるアフリカーンス語を入れ、文字の読めない人もイラストだけで分かるような工夫を行っている。
そうした鈴木先生、化学の先生、保護者などからのフィードバックを得たことに加え、さらにさまざまな人たちとの出会いや、ふれあいが大きな学びとなったことは明らかなようだ。作品の冒頭にあるインタビューのために渋谷の駅前に立ったときも、「初めてのことで緊張して話しかけることができず、想像以上に時間がかかり何度も心が折れそうになった」というが、思い切って話しかけたら人々が協力してくれたという実感は大きな自信につながった。そしてインタビューという演出をしたことで、「日本人には考えられないほど、汚れた水を飲んでいる人たちが多く存在する」という問題提起を際立たせ、動画に生き生きとした雰囲気を作り出すことに成功した。
また実現可能性を検証するためにユニセフを訪問したことも、貴重な体験となったようだ。実際に国際支援に取り組む職員からアドバイスをもらっただけでなく、飢餓や物資支援の現状について詳しくレクチャーを受けたことで新しい気づきや考え方の変化などもあったという。
「生徒たちにとって動画や濾過器を作る“過程”こそが最も大きな創造的な学びになったと思います。ご協力いただいた皆さんには本当に感謝しています。そうした現実社会とのつながりが大きな刺激になり、生徒たちの取り組みへのモチベーションが高まったことを実感しました」(鈴木氏)