2015年から息子と一緒にロボットプログラミングを開始。2017年にクラブを立ち上げ、子どもたちを全国優勝へ導き、3年後には国際大会の舞台まで登りつめた。初めて国際大会に挑戦するまでの経緯、子どもたちの原動力と「WRO 2019ハンガリー国際大会」の体験、これからの課題について紹介する。
はじまりは息子の誕生日プレゼント
ロボットプログラミングを始めたきっかけは、当時、小学2年生の息子へ誕生日にプレゼントした「教育版レゴ(R) マインドストーム(R) EV3」だった。息子は喜んでいろいろなロボットを作って楽しんでいたが、次第に飽きて触らなくなってしまった。そんなとき、ロボット体験会(WRO沖縄事務局主催)が開催されると聞いて参加すると、息子は目をキラキラと輝かせながらプログラミングしており、想像以上に興味を持ったようであった。そこから親子の共通の趣味としてロボットプログラミングを始めることとなり、ロボット競技への挑戦が始まった。
私たちが挑戦したロボット競技、WRO(World Robot Olympiad)は、現在、世界75カ国・地域、7万5000人以上の小中高生が参加し、自律型ロボットを作って競う世界でも最大規模の国際ロボットコンテストである。
息子とロボットプログラミングを学び始めた1年目は、基本的な動かし方や、ライントレース(ロボットが光センサーを使って黒い線を読み取りながら走る)の仕組みも知らず、他のチームのロボットがなぜあんなに速くきれいに動くのか、全く分からないという状況で、最初の2年間は地区大会で入賞すらできなかった。
その悔しい気持ちがバネになり、インターネットを活用して、海外のロボットコミュニティへ参加するなど、息子と一緒にさまざまな情報を集め、試行錯誤を繰り返してロボットプログラミングを独学で学んでいった。
ロボットクラブの立ち上げ、素人集団からの全国優勝
そんな中、転機となったのは息子が通っている学校からの「ロボットプログラミングを教えるクラブを作りたい」という相談であった。
2017年当時、沖縄にもプログラミングスクールや、CoderDojoといった子どもたちがプログラミングを学ぶ場が徐々に増えてきていたが、ロボットを特化して教えるスクールはまだなかった。そのため、息子はチームを組む仲間づくりにも苦戦しており、ロボット競技をする仲間作りもできたらと考え、2017年4月、クラブ運営を始めることになったのだ。
初年度のメンバーは小学4年生~6年生の15名。どのように教えていくのか悩みながらも、今まで息子をサポートしてきた経験から「目標が成長につながる」、逆に言えば「やるべきことが明確でなければ、集中できずに遊んでしまう」ということを肌で感じていた。そのため、クラブでは「WROに出場する」という行動目標を掲げ、問題をたくさん用意し、やるべきことを明確にするように心掛けた。また、問題の進捗状況をみんなが見える形にすることで、子ども同士で競う環境作りを心掛けた。
これが良い結果を生み、子どもたちは競って練習を行い、想像以上のスピードで技術を習得していった。そして、クラブを立ち上げた初年度から、WRO全国大会において沖縄県勢初となるミドル競技(小学生)全国優勝を果たすことができたのだ。
この全国優勝は新聞やテレビなど、多くのメディアに取り上げていただき、そして、このことはクラブ内でひとつの変化が起きるきっかけにもなった。クラブ運営初年度は、「楽しくロボットプログラミングを学びながら、ロボット競技に出場する、つまり厳しくは指導しない」という運営方針であった。ただ、子どもたちから「来年は自分も優勝したい! もっとロボットを詳しく知りたい!」という声を受けて、2年目以降は全国優勝、国際大会出場を目指した厳しい指導を行うように運営方針を切り替えた。やる気のある子どもたちのパワーは素晴らしく、クラブ時間以外の週末もとことんロボットと向き合い、練習を重ねることで、実力をつけていった。
そんな子どもたちの努力は結果となって表れ、ミドル競技小学生部門で2017年、2018年、2019年と3年連続の全国優勝を果たし、2018年は中学生部門でも全国準優勝となった。しかし、高度な知識が求められるエキスパート競技では、全国大会に出場するものの、表彰台に登れず、選手たちは悔し涙を流していた。
全国大会優勝への道のり
WROエキスパート部門のルールは、毎年1月に世界で一斉に発表される。ルールは英語で発表されるため、まず正確にその内容を把握することから始まる。2019年のテーマは「SMART Cities」。ビリヤード台よりも少し小さな競技台には動物園やショッピングセンター、学校、映画館といった街が描かれており、競技は「(1)自動運転の輸送ロボットが、各施設にいる乗客を安全・確実に目的地に運ぶこと」「(2)バッテリーを指定の場所へ運ぶこと」の2つのミッションであった。
当たり前だがロボットは現実の世界を走る。同じロボット、同じプログラムを動かしても、その日の湿度や競技台のホコリ、バッテリーの残量、会場で使用している照明が蛍光灯か白熱灯といったさまざまな影響を受け、毎回動作は異なる。そのため、競技では全てのミッションをクリアすること自体が難しく、大会本番で満点を取れるのは全体の2~3割程度である。
昨年までの苦い経験から、今年は「タイムは考えず、ロボットを100回走らせたら、100回連続でゴールする」という精度を第一とした方針で取り組むことになった。チームメンバーがロボットの構造やプログラムについて意見を出し合い、ときにはケンカをしながらセンサーの場所や、ブロックをつかむ機構を変えて精度は上がらないかを試行錯誤を繰り返した。
また、WROの特徴のひとつに「サプライズルール」というものがある。このサプライズルールは大会当日に発表される追加ルールで、どのような内容になるのかは当日まで分からない。全国上位になるためにはサプライズルールをクリアするのは必須であり、その対策は自らが作り上げたロボットとプログラムを熟知すること、そして、出題される課題を予想し、より多くのプログラムを作り上げるしかない。
メインプログラマーとして「Amicus NKR」チームに参加した息子は、チーム練習以外にも、朝早くから夜遅くまでロボットと向き合い、夏休みもロボットを見るのも嫌になるくらいロボット漬けの毎日を過ごして準備を重ねていた。
沖縄県勢初となる全国優勝を目標としていた「Amicus NKR」チームは、7月に行われた沖縄地区大会を順調に勝ち上がり、8月に行われた「第16回WRO Japan決勝大会 in 西宮」において、ついに全国優勝を果たし、日本代表として国際大会出場が決まった。息子にとっては小学2年生から挑み続け、5年目でつかんだ初の全国優勝であった。