Slackの導入で山積みだったコミュニケーションの課題を解決
急速に知名度を高め、6年連続で志願者数日本一となった近畿大学(2019年、教育情報会社大学通信調査)。「近大マグロ」や「ド派手入学式」などホットな話題にも事欠かない学校だ。日本初のインターネット出願やAmazonでの教科書販売、卒業証明書のコンビニ発行といった先駆的な取り組みでも知られ、近年では「学園祭の屋台へのLINE Pay、メルペイ導入」などでも注目を浴びている。これらテクノロジーの活用には、大学の差別化戦略として先進的なブランドを確立する意図があるという。
そうした校風も追い風となり、2018年4月、教育機関としてはいち早く職員同士のコミュニケーションツールとして「Slack」を導入。法人部門で部署の取りまとめを担い、情報システム部門とも連携してSlack導入を牽引した上原隆明氏は、「先進的なツールを導入する目的もさることながら、本質的にも課題解決の必要がありました」と語る。
「大学の広い敷地に業務拠点が点在する状態で、500人以上の職員が相互にコミュニケーションするには、内線電話が唯一の手段でした。ですが、かかってきた電話を取り次ぐにも手間がかかり、急ぎの内容でなくても対応せざるを得ないため、とにかく多くの無駄が生じるのです。口頭での判断や決裁も多く、エビデンスが残らないことも課題となります。誰もが非効率であることを感じていたものの、10年以上前に立ち上げた学内ポータルサイトやメールでは即時性が求められるコミュニケーションとして不十分であり、電話以外に選択肢がない状態だったのです」(上原氏)
結果として、アンオフィシャルなLINEグループを作る部署も現れたが、私物の端末でプライベートな連絡と混在することから生じるトラブルや、クローズドなグループでのコミュニケーションゆえコントロールが難しいなど、さまざまな問題が生じていた。また紙文書が多いことや、プロジェクトの関係者が複数部門にわたることも多く、ファイルやアプリケーションと連携した柔軟なコミュニケーションツールが求められていた。そこで検討されたのがSlackだった。
「決め手になったのは先進性と実績です。多くの先進的企業で活用実績があり、学校組織として角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校に導入されたことで『大学でも使える』と確信が持てました。さらに教育機関向けの料金プランが設定されたこともあり、リーズナブルに導入が可能であることも後押しとなりました」(上原氏)
「スモールスタート」と「トップダウン」でコミュニケーションを変える
さまざまな課題を解決する柔軟なコミュニケーションツールとしてSlackに目を付けたものの、職員間での認知度は今ひとつ。そこで2016年に無料プランを部署限定で試験導入し、2017年に日本語版が登場したところで有料プランに切り替え、最終的にはトップダウンで2019年4月に職員全員、同年7月には全教員への導入を図った。
「最も大変だったのは、Slackに慣れてもらうことでした。スモールスタートで始めたのは、まずは推進する部署として使い込み、トレーナーになる意味もありました。その結果、全校導入もスムーズに行うことができたのです。また2019年12月には学内で『SlackDay』という会議を開催して、全国から担当者に集まってもらい、それぞれの部署に戻ってから『Slackアンバサダー』として推進役を担ってもらったんです。そして、何と言ってもやはりトップの理解は重要ですね。まずは多くの部署の合議者である総務部長より、稟議の確認はSlackのみで進めるよう指示してもらいました。さらに理事長もアカウントを作り、使い始めたことも大きな牽引力となりました」(上原氏)
全職員がSlackアカウントを持つことで、日本一ド派手と言われる入学式のチャンネルでも複数部門の数十人のメンバーが同時並行でコミュニケーションを図れるようになった。
「これまでと比べて格段に時間が削減でき、一方でコミュニケーションの密度が高まり、よりいっそう集中して業務に取り組めるようになったと聞いています。日常的にも会話数が圧倒的に増え、職員同士の仲が良くなったのも成果と言えるでしょう」(上原氏)
「Slackがあるから、もはや内線電話は不要」という声を受け、2019年12月には東大阪キャンパスの職員の固定電話を全て廃止。先行していたフリーアドレス化とともに、BYODも含めた持ち運びができる端末へと転換を図り、大幅なコスト削減につなげることができた。