「正多角形の角」の理解のためにプログラミング教育を掛け合わせる
最初に紹介するのは、東京都狛江市の狛江第五小学校(取材当時)の竹谷正明先生が取り組んだ、算数にプログラミングを組み合わせた授業です。
竹谷先生はクラブ活動などでプログラミングを教えてきただけでなく、主任教諭として校内にプログラミング教育を教える立場でもあります。積み重ねてきた実践の中で手応えを感じた授業の一つが、「「正多角形の角」の理解のためにプログラミング教育を掛け合わせる」です。
必要な設備環境は、iPadがクラスの人数分、Wi-Fiアクセスポイント搭載の電子黒板。これらをセットして普通教室で行います。
同校の算数の授業では3クラスを発展(1)、基本(2)、補充(1)と4つのコースに分けています。紹介する授業例は発展コースで行ったもので、計算などの理解が優れ、パソコンが家庭にあるためプログラミングのイメージも持っている児童が多いとのこと。プログラミング教室に参加したことのある児童も三分の一ほどを占めます。
単元の狙いとしては、図形についての観察や構造理解などの活動を通して、平面図形についての理解を深めること。そして図形の性質を見出し、図形を調べたり作ったりすることです。
単元は8時間で構成され、流れは以下の図のように考えられています。今回は最後の8時間目を紹介します。
内角の和の理解から、正多角形をプログラミングで描く
8時間目の狙いは「正多角形の1 つの内角の大きさをもとに、正多角形を描くプログラムを考えることができる」こと。図形を視覚的に理解しやすいScratchがよく知られていますが、Flashが必要なためiPadでは使用できません。そのため、Pyonkeeという、ScratchをベースにしたiPad用アプリを使用します。
授業の展開は以下の表のとおりです。
時間 | 学習活動 | ○留意点 ★評価 |
2分 |
◆既習事項の確認をする 多角形の内角の和について学習したことを想起する。 |
○三角形の内角の和が180°であることをもとに多角形の内角の和を求めることを確認する。 |
20分 |
◆課題をつかむ ・プログラミングでいろいろな正多角形を描こう ◆正方形の描き方を考える ・辺の数が4本、1つの角が90°をもとにして考える。 ◆正三角形の描き方を考える ・1 つの角の大きさを求める。 ・辺の数3本、1 つの角60°をもとにして考える。 ・うまくいかない場合、どこを変えればよいか考える。 ・必要な数値を変えてやり直す。 ◆正六角形の描き方を考える ・正三角形でうまくいかなかったことをもとに考える。 |
○「繰り返し」ブロックの使い方を確認する。 ○「60°回す」ではうまく描けないことを確認する。 ○外角の大きさを考えるとうまく描けることに動作で気づかせる。 |
10分 |
◆正五角形の描き方を考える ・これまでの結果を表にまとめ、きまりを考える。 ・きまりをもとにして、正五角形が描けるプログラムを考える。 |
○繰り返す数×回す角度が360°になることを確認する。 |
10分 |
◆いろいろな正多角形の描き方を考える ・自分で考えた正多角形を描くプログラムを考える。 ・できた多角形とプログラムを発表する。 |
○必要に応じて、電卓やヒントカード(演算ブロックの説明)を使わせる。 ★試行錯誤しながらも自分の考えをプログラムで表現しようとしているか(観察・成果物)。 |
3分 |
◆振り返りをする 「今日の授業で感じたことや考えたこと、もっとやってみたいことを書きましょう。」 |
授業は、ブロックの使い方などを繰り返し確認しながら、正三角形や正方形の書き方について児童自身が試行錯誤できるように指示をしましょう。また、先生が描き方をトライアンドエラーしてみるのも有効です。
ペアワークでも取り組み、自分で考えたり友達と話したりする中で正五角形や正六角形、それ以外の様々な正多角形を描いてみてもらいましょう。
竹谷先生の振り返り
――授業の中での工夫を教えてください。
授業展開の中で、児童に一度失敗を経験させることを大切にしています。本時でも正三角形がうまく描けない過程をポイントとして入れました。正三角形を書かせる際に、内角の和は180度だという既習内容を振り返り、「1つ分の角は60°回すのでいいよね?」と児童に発問しながら、教師がトライして見せました。
しかし、実際は60°回転するのではなく、「180°-60°=120°」回転させなければいけません。それを、結果が予想と違うことで気づかせたいと思いました。プログラミングでいう、デバッグにあたる作業を経験させることを大事にしたかったのです。最終的には、外角がわかれば正三角形を描くことができるということに気づけますよね。そこをスーッと通りすぎてはいけないと思い、引っかからせるように仕組みました。
とはいえ、子どもに失敗させてしまうのは、いろいろな配慮が必要です。ですから、今回の授業では、教師の私が失敗してみせ児童に気づかせるようにしました。
――授業の中で特に伝えたかったことを教えてください。
プログラミングの繰り返しの便利さや、一部を変えると結果が変わるということを実体験として学ばせることです。それが、プログラミングの基礎になると考えました。今回の授業では、そうしたことを感覚的につかめるようにはなったのではないかと思います。
正方形は、「90°×4角」ですから360°になります。「では、正五角形は何度回せばよいのだろう?」と考えさせます。360°を5で割れば一角の角度が出るはずだと考えを巡らすことができます。そうすると、一角72°と導きだせますよね。その後、「考えたことがその通りかどうか確認してみよう」と促し、「見つけたきまりは本当だったんだ!」と気づかせるという思考の流れを組みました。
――授業の課題を教えてください。
時間のやりくりが一番の課題だと感じています。プログラミング教育をうまく組み込んでいければよいのですが、45分内に教科の内容とタブレットなどの操作が求められるので、どうしても追われるようになってしまいます。時間があれば、七角形を描かせたり、72°なら72°と数字で記入するのではなく数式(360÷7)を入れる操作をしたりということを試してみたかったです。
そうすると、分数で表記すると七角形が描けるというようなことが理解できるようになるはずです。算数の学びが非常に発展的になりますよね。今後も、時間の効果的なやりくりを考えていきたいと思います。
アクティブ・ラーニングとプログラミングで理科の実験を実施
2番目に紹介するのは、大阪市立苗代小学校の金川弘希先生が実践している、理科の振り子の単元でプログラミングを取り入れた授業です。
金川先生自身はパソコンが大の苦手とのことですが、児童がプログラミングに夢中になる姿に後押しされて、授業に取り入れようと決意したそうです。大阪市教育センターの「がんばる先生支援」事業で助成を受け、学校の中核としてプログラミング教育を推進されています。
同校にはパソコンルームも完備されており、Wi-Fiも完備。今回の授業ではそれに加えて、レゴと包括協定を結ぶ大阪市阿倍野区から「レゴ マインドストーム EV3」を借りて行われました。ディスプレイの画面上だけではイメージしづらいプログラミングも、ロボットを用いることで具体的なものとして捉えることができるのが利点だそうです。
単元としては、パソコンでプログラミングをしてレゴ マインドストーム EV3を動かし、おもりの重さや糸の長さなどを変えて振り子の動く様子を調べ、振り子の運動の規則性について理解することが狙いです。
全6時間の単元のうち、紹介するのは実験を行う2~4時間目。振り子ロボットを作ってプログラミングを行います。
振れ幅・振り子の長さを変える実験の考察・まとめ
3時間分をかけて行う授業の狙いは「振り子の運動の変化とその要因を関連付けて考察し、自分の考えを表現する」こと。授業の展開は以下のとおり。
時間 | 子どもの学習活動や子どもの思考(☆) | 指導上の留意点や指導者の支援(○) | 評価の視点 |
5分 |
◆前時に行ったおもりの重さを変えた実験の結果・考察を振り返り、問題の予想と理由を確認する。 ☆重さを変えても、振り子が1往復する時間はあまり変わらなかった。 ☆振れ幅を大きくしたら距離が長くなるから、1往復にかかる時間は長くなりそうだ。 ☆振り子の長さを長くすると、ゆっくり動きそうだから、1往復にかかる時間は長くなりそうだ。 ◆本日行う実験方法を確認する。 ☆振れ幅を変える実験からはじめよう。 ☆振り子の長さを変える実験からはじめよう。 |
○自分の予想と理由を確認させる。 基本となる振り子のデータ(長さ55cm、重さ310g、振れ幅15°)から1つの条件だけを変えてデータを取り、各グループ2つの実験を行うことを確認する。 ○グループで役割(プログラム転送係、おもりを放す係など)を交代して行うことを確認する。 ○調べる条件以外は、同じ条件にして、複数回実験を行うことを確認する。 |
◇予想と理由を確認することができる。 |
33分 |
◆決まった順番で実験を行う。 ☆振れ幅を30°に変える。 ☆振り子の長さを240cmに変える。 ◆結果を表にまとめた後、グラフにシールを貼って黒板に掲示する。 ☆グラフにシールを貼ったら、結果が見やすいね。 ◆結果から考察し、グループで交流する。 ☆このデータで、どこを比べてもひもの長さを長く したときだけ1往復する時間が長くなっている。 |
実験結果が出たグループから、結果をグラフにまとめて黒板に掲示し、考察をまとめておくように指示する。 ○各グループの結果を把握し、他と違う結果が出たグループの様子を確認しておく。 ○条件を変えることによって、結果が大きく変わっているか、変わっていないかという視点で見るように助言する。 ○自分たちのデータと比べて、同じところとおかしなところがないのかにも注目させる。 |
◇実験結果を確認し、グラフに表すことができる。 ◇グループ内で意見を交換することができる。 |
7分 |
◆考察を発表し、グループで交流する。 ★振り子が1往復する時間は、振り子の長さを変えたときだけ変わったな。 ★おもりの重さを重くしても、1往復する時間はあまり変わらないな。 ★ 振れ幅を大きくしても小さくしても1往復する時間はほとんど同じなんだね。 ★あのグループのデータは結果が違いすぎるな。おかしいな。 |
◇振り子の運動の変化とその要 因を関係付けて考察し、自分 の考えを表現している。 |
授業はまず振り子の設定基準を示してあげることが大事です。そのあとプログラミングで設定し、振り子を観察します。振り子の動きをグループで記入したら、結果を教師が比較しながら発表します。
金川先生の振り返り
――授業の中での工夫を教えてください。
学習は3人1組のグループワークで行いました。2人だと苦手な子同士がペアになってしまうと、活動が滞ってしまうからです。また、4人だと、1人だけ参加しなかったり、2人ずつで話してしまったりしてグループが分断してしまう問題が出てきます。そこで、3人組がちょうどよいのではないかと考えています。
グループ編成においては、学力差だけではなく、コミュニケーションを取るのが好きか嫌いかなどの子どもの特性も見極めています。
私はあくまで、プログラミングはアクティブ・ラーニングのツールとして使いたいと考えています。なぜならば、1人で行うプログラミングであれば自宅でもできるからです。
さらに、活動の中では、1人ひとりに達成感を抱かせることを重視しています。グループの中で認め合ったり、グループで発表をしてクラスメイトから拍手されたりすることで、授業内で達成感を持たせることができると考えています。
――教材を選んだポイントを教えてください。
レゴ マインドストームを選んだのは、子どもたちに実物でしっかりと説明できるからです。画面上だけのプログラミングの場合は、できる子は理解を深められるのですが、イメージできない子は置いていかれてしまう可能性があります。
また、画面だけですと、個人のワークが中心になるので子ども同士の会話が生まれにくい。教員側も、画面だけで子どもが取り組むよりも、実物が見えたほうが指導をしやすいですしね。実物があることで、子どもたちも授業を受けやすいし、教員側も授業がしやすくなるのではないかと思います。
――授業で印象に残っていることを教えてください。
子どもたちが夢中になって進めていく姿が印象に残っています。うまくいかなければ、それぞれ試行錯誤しながら実験を進行していました。
公開授業で実践をしたので、見学していた先生方や保護者の方からも感想をいただきました。「子どもたち自身で課題を解こうとしており、これまでの授業の風景とはまったく違う」「プログラミングに苦手意識があったが、子どもたちが主体となるため、自分でも授業ができそうだ」「子どもたちの話し合いの内容が濃く、驚いた」などの声が寄せられました。
国語、英語、総合学習の事例も!
『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』では、上記で紹介した以外の算数と理科、そして国語や英語、総合学習でプログラミング教育を取り入れた授業を紹介しています。授業の進め方や準備物だけでなく、先生たちの声も取り上げていますので、まずは授業計画を作ってみたい方にも、これから先行して実践してみたい方にも参考になるのではないでしょうか。
学校で使える「小学校向けプログラミング教育ポスター」もプレゼントしていますので、本書が気になる方はぜひお買い求めください。