新学習指導要領検討に関わった実感
2020年全面実施の小学校新学習指導要領でプログラミングが必修になったことはすでにご存じの皆さんも多いだろう。プログラミングが必修化されるまでには、文部科学省中央教育審議会情報ワーキンググループ、文部科学省小学校プログラミング有識者会議などで検討がなされてきた。
兼宗教授はその両方のメンバーであり、その成立過程に関わったひとりだ。専門はプログラミング言語、情報科学教育で、独自のプログラミング言語「ドリトル」を開発。また、「CSアンプラグド」というコンピューターサイエンスを学ぶ手法を日本に紹介するなどしてきた。現在情報処理学会コンピュータと教育研究会主査、情報オリンピックの理事を務めている。
学習指導要領というのは10年に一度改訂されるため、2020年に始まる新学習指導要領はその先10年間使われる。検討が始まるのが5年前くらいだとして検討の時点から15年間通用する内容を考えなければいけないということになる。
「例えば今から15年前の2003年というと、スマートフォンはまだなく携帯電話でやっと通話以外の文字のメッセージが普及した頃です。今から5年後ならまだしも、15年後まで使えるようなプログラミング教育のカリキュラムを考えるのはなかなか難しい問題です」
15年と言わず5年単位で見ても世の中は相当変わってきた。猛スピードで変化する時代であっても、実施から10年という長期間使われる内容を定めなければならないのが学習指導要領なのだ。
小学生がプログラミングをやる意義
兼宗教授は「どうしてプログラミング教育なんて子どもたちにやらせるんですか」「かわいそうじゃないですか」といった声をよく耳にするそうだ。
まず、日本は技術立国というイメージを多くの人が持っているが、ITに関してはそうではないという現実に兼宗教授は触れた。日本としてITの優れた人を育てるため、短期的な人材育成を行うならば、大学生の支援や企業内でエンジニアを援助する方法もある。それを義務教育の小学生から始めるのは、全ての国民がプログラミングを体験して大人になる世の中にしようとの考えからだ。
「今や身の回りでコンピュータが入ってない電化製品や機械はありません。例えば、文字を読んだり書いたりすることと同じように、コンピュータの仕組みを知ることが、生きていくのに最低限のスキルになると考えられます。これらを知らないことは、子どもにとって不利益だと言えるでしょう」
今の子どもたちにとって、ゲーム機やスマートフォン・タブレット・YouTubeなどはリアルでも、それがどうやって作られているかは考えたこともない様子だという。プログラミングを体験することでそれらの仕組みに気づき、使い手だけではなく作り手になれる視点を持ってほしいということだ。
とはいえ、小学生に何か高度なプログラミング技術を教えようとしているわけではない。小学校では基本的に、楽しく体験することを重視している。
小、中、高のプログラミング教育段階
「プログラミング」は新たな教科になったわけではない。小学校の新学習指導要領では、
- 従来教科(算数・理科など)でプログラミングを実施する
- 総合的な学習の時間の時間でプログラミングを体験する
といったことが示されている。全学年全教科で取り入れることを推奨しているが、具体的な内容や時間数はカリキュラムマネジメントとして学校の裁量に任され、プログラミング言語の種類や教材の指定もない。
なお、中学は2021年、高校は2022年にそれぞれ新学習指導要領が実施を控えている。中学の「技術」は内容が増えネットワーク通信も扱うようになり、高校は「情報」の内訳が「情報I」「情報II」に再編され扱う内容も増える。さらに、センター試験に代わる次の「大学入学共通テスト」の主要科目のひとつとして、「情報」が入ることが検討され始めている。
中学から急に内容が増えるため、小中のなだらかな連携や、小中高各段階でいかに楽しい体験として学習できるかが課題になるということだ。