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イベントレポート(英語教育)

日本の英語力は過去最低の96位に転落──AI時代に問われる「人間ならではの言語能力」とは?

「EF 英語能力指数(EF EPI)2025年版 発表会」レポート

AIは壁打ち相手、対話は人間──留学経験者と専門家が見るAI活用

 発表会の後半では、「AIと語学学習の共存時代へ」と題したパネルディスカッションが行われた。モデレーターをEF Japan 代表取締役社長の伊東グローニング七菜氏が務め、パネリストとして、東京大学名誉教授のトム・ガリー氏、EFニューヨーク校への留学経験を持つ清原生都樹(いつき)氏、イー・エフ・コーポレート・エデュケーション 代表の井上徳彦(のりひこ)氏の3名が登壇した。

写真左より、イー・エフ・コーポレート・エデュケーション 代表 井上徳彦氏、東京大学名誉教授 トム・ガリー氏、清原生都樹氏、EF Japan 代表取締役社長 伊東グローニング七菜氏
写真左より、イー・エフ・コーポレート・エデュケーション 代表 井上徳彦氏、東京大学名誉教授 トム・ガリー氏、清原生都樹氏、EF Japan 代表取締役社長 伊東グローニング七菜氏

 最初に「AIは英語学習にどのような影響を与えるか」というテーマについて、実際にニューヨーク留学中にChatGPTを活用していたという清原氏が、自身の経験を語った。

 清原氏は、AIの用途を「自分との英語の向き合い方」に限定。「英語で書いた日記の文法訂正などにはAIを毎日使っていたが、友人とのコミュニケーションには全く使わない。私はAIとではなく、その人自身とコミュニケーションをとりたかったから」と話し、AIは「利便性のあるツール」として使うにとどめたという。

 これに対し、モデレーターの伊東氏は「私自身が英語を学んだ際は辞書を使っていたので、そのような学習ツールがあるのはうらやましい」と感想を述べつつ、「AIが個人の学習効率を上げる一方で、対人関係においてはあえて使わない」という選択肢に共感した。

 続いて、言語教育の専門家であるトム・ガリー氏が、アカデミックな視点からAIの影響について言及した。

 ガリー氏は、まず「3年前にChatGPTやGeminiのようなものが登場するとは、誰も想像していなかった」と、技術の進化スピードの速さを強調。その上で、「言葉は人間特有の技能であり、人間と動物を区別する重要な要素だと考えられてきたが、AIが文法的に正しく意味のある会話を生成できるようになったことは革新的だった」と評価した。

 しかし、その反面で「AIがあるから外国語を学ばなくてもいいのではないか」という風潮が一部で生まれていることにも触れた。ガリー氏は「翻訳や通訳など、AIはある程度活用できるが、信頼関係の構築には直接の対話が不可欠」と断言した。

 さらにガリー氏は、学習におけるモチベーションの観点からAIの限界を指摘。「AIを使った会話練習や作文訂正は有効だが、AIからモチベーションをもらい続けることは難しい。AIは日本語も英語もフランス語もできる『完璧な多言語話者』であり、共通言語がない相手と話す際の『どうしても伝えたい』という切実さがない。学習を継続する意欲を保つには、やはり人間同士の対話やインタラクションが必要だ」と語った。

企業研修の現場でも「AIへの過信」から「リアルな体験への回帰」へ

 企業向け語学研修を手掛ける井上氏は、ビジネスの現場における変化を紹介した。近年、企業のグローバル展開やM&Aに伴い、英語力やグローバルコミュニケーション能力の需要はかつてないほど高まっているという。

 その中で、「AIで研修を代替できないか」という問い合わせが増えていることを認めつつ、井上氏はEFでの実体験として、コロナ禍における中国での事例を紹介した。

 「コロナ禍で中国の語学学校の多くを閉鎖し、オンラインに移行したが、残った15校のリアルな学校の重要性がむしろ高まった。オンラインで学んだことを実践する場、教師が生徒を励ます場として、オフラインの価値が再認識された」と、井上氏は語った。

 EFではオンラインプラットフォームやAI機能への投資を積極的に進めているが、井上氏は「AIが教師の役割を完全に代替するとは考えていない。教師の役割やスキルは変わっていくが、人間的な関わりは教育において不可欠であり続ける」と、テクノロジーとの人間による指導の共存を訴えた。

 ディスカッションの最後に、「AIで英語が学べる時代に、何が人間の差別化要因になるのか」というテーマが投げかけられた。

 清原氏は、「人生や経験をAIから得ることはできない」と回答。「英語を使って人生を歩み、臨床検査技師としてのキャリアを掛け合わせることで、自分だけの差別化ができる」と、自身のキャリアビジョンを交えて力強く語った。

 ガリー氏もこれに賛同し、「清原さんのように、自分の意志や考えを伝えたいという強い思いこそが重要」と述べた。「AIは社会の当事者ではなく、アイデンティティを持っていない。倫理的な立場も持たない。だからこそ、人間が自分の価値観や経験に基づいて判断し、コミュニケーションをとることの価値は変わらない」と総括した。

 モデレーターの伊東氏は「AIと共存し、有効に活用しつつも、自分自身をアップデートしていくことが非常に大事だと感じた」と、パネルディスカッションを締めくくった。

次のページ
トム・ガリー氏が語る「AIエージェント時代の教育」

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足しプログラミング体験教室などを開催したほか、シニア向けサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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