トム・ガリー氏が語る「AIエージェント時代の教育」
発表会の終了後、教育におけるAIの活用について積極的に発信を行っているトム・ガリー氏にお話をうかがった。生成AIが急速に進化し、自律的な「エージェント」へと移行しつつある現在、学びはどう変わっていくのだろうか。
ガリー氏は、AIの進化により「初歩的な技能習得の必要性は薄れている」と指摘する。例えばプログラミングにおいて、かつては一行一行コードを書き、アルゴリズムを学ぶ必要があったが、今はその作業をAIが担えるようになった。
「だからといって人間が不要になるわけではない」と、ガリー氏は指摘する。
「どのようなシステムを構築するか、ユーザーはどう使うかといった『上位レベルでの俯瞰的な思考』や、問題を定義して解決策をAIに任せる力は、依然として人間にしかできない。これまでは10年、20年の経験者しかできなかったような高度な判断を、若いうちから教育していく必要がある」という。
この視点は語学学習にも通じる。単なる翻訳やメール作成はAIで事足りるかもしれない。しかし、これから海外進出をする企業が、接点のない国と商売をする際、そこには言語だけでなく「文化の違い」や「文脈(コンテキスト)」の理解が不可欠となる。
「AIは多言語を操るが、社会の当事者ではなく、アイデンティティや倫理的な立場を持っていない。だからこそ、言語、社会、文化、そしてビジネスの文脈を統合して判断する『人間力』をどう育てるかが、これからの教育の課題になる」と、ガリー氏は話した。
順位低下を「学習の質」転換のチャンスへ
今回のEF EPIの結果は、日本の英語教育にとって厳しい現実を突きつけるものだった。しかし、ガリー氏の提言は、単にスコアを上げるための「暗記型学習」に回帰するのではなく、AIを使いこなしながらも、AIには持ち得ない「文化的背景の理解」や「対人コミュニケーションの価値」の重要性にも改めて気付かされるものになった。
「非常に低い」という現在地から、AIという強力なツールを手に、日本がどう巻き返していくのか。教育現場での「人間ならではの学び」の再定義が問われている。
