東京工科大学は10月2日、八王子キャンパスにて、キャンパスが所在する東京都八王子市とのAI/DX連携協定の締結式を実施した。併せて、同キャンパス内に構築されたAIスーパーコンピューター「青嵐(せいらん)」についてメディア向けの発表会を行い、同学の「AI UNIVERSITY」構想について説明した。

東京工科大学を運営する、片柳学園 理事長である千葉茂氏は、締結式冒頭のあいさつで、同学園が日本でもいち早くコンピューター教育を開始した歴史に言及。「時代を切り拓くエンジニアを育成する」という同学園の方針を示し、今回のAIスーパーコンピューター(以下、AIスパコン)の導入も、「私たちのDNAに沿っており、新たなチャレンジとして歴史の一部になるだろう」と述べた。さらに八王子市との関係については、エレクトロニクスやヘルスケアとAIを掛け合わせた研究によって、地域に貢献するという意気込みを語った。

東京工科大学の学長を務める香川豊氏は、AIスパコンの導入により、同学が八王子市と連携し、教育や産業振興などで貢献できることに期待を示した。また、これまでAIスパコンに触れることができなかった市内の企業や市民に、「高性能を味わっていただきたい」と述べ、市民が直接AIスパコンを利用することは現状できないものの、研究や産学連携の実証等を通して、AIが進化することによって社会がどのように変わるか、その可能性を広く示していくことを説明した。

八王子市長の初宿(しやけ)和夫氏は、「AIが行政の課題をどのように解決し、新たなステージの行政・生活を市民の皆さまに示すことができるのか。それが私たち市役所側に問われており、結果を出さなければならない」と意気込みを述べた。

締結式に続いて開かれたAIスパコンの発表会では、まず学長の香川氏が同学が掲げるAI UNIVERSITY構想について説明。香川氏は「私たちは今年のオープンキャンパスからAI UNIVERSITYとなることを明確に示している」と述べた。具体的には、情報系の学部だけでなく、すべての学生がAIを使いこなし、社会課題の発見・解決に活用できる人材となることを目指すものだ。AIスーパーコンピューターである青嵐の導入もその一環となる。
同学ではAIスパコンを余すことなく使うための仕組みとして「AI/DX価値創造機構」を構築。「AIを知る」「AIを使う」「AIを活かす」という3つのステージを経て、学生は「AIとは何か」から「AIは社会的にどのように活用されてるのか」までを理解することができる。AIの基礎教養・専門分野・実践研究の学びに取り組み、最終的にはAIによって未来創造ができる人材となっていくという。

さらに、同学は今年4月に「AIテクノロジーセンター」を設立。AIに関する知識が少ない学生も同センターのサポートのもとで、スパコンを活用したAI技術の提供を受けることができる。加えて、既存のデジタルツインセンターとも連携し、学内の教育・研究だけでなく、産学連携や地域連携も視野に入れていく。
また、香川氏はAI UNIVERSITYによって目指す社会として、「AIウェルビーイングの実現」を挙げた。これは、AIを活用して社会生活をより良くし、社会の課題を解決していくことである。大学としてのAI人材の育成に加えて、その知見を地域社会に生かすことを重視している。
AIを活用した具体的な技術の社会還元としては、自動運転バスの導入による「誰もが移動できる」社会の実現や、AIとVRを組み合わせた新たな医療技術の創出を例に挙げた。
続いて、NVIDIAのエンタープライズマーケティング本部 本部長 堀内朗氏がコメントを寄せた。青嵐に採用された「NVIDIA DGX B200」(以下、DGX B200)には、NVIDIAの最新GPUアーキテクチャである「NVIDIA Blackwell」および「NVIDIA AI Enterpriseソフトウェア プラットフォーム」が搭載されている。現状では日本の私立大学において最大規模のAIスパコンであり、同学はDGX B200を国内で導入する大学のひとつとなる。システム全体のAIの学習理論性能は1秒間に90京回の計算に達するという。

堀内氏は「青嵐の真価はそのスペックの高さだけではなく、学生一人ひとりが圧倒的な計算資源を活用し、社会課題の解決に直結させていく点にあり、非常に素晴らしい取り組みだ」と、期待を寄せた。
具体的な研究面では、学内専用のLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の構築、AI倫理ガバナンス検証環境の整備、そして判断根拠を人間が理解できるようにする「説明可能なAI(XAI)」の研究、デジタルツインといった最先端のプロジェクトが加速すると見込まれている。

東京工科大学 AIテクノロジーセンター ICT部門長の生野壮一郎氏は、同学とNVIDIAの関係を改めて説明。2023年6月、コンピューターサイエンス学部にNVIDIAのミニスーパーコンピューターシステムを設置したところ、学生から非常に好評でほぼ100%の利用率だったという。また、2023年9月に両者は学術交流の協定を締結し、NVIDIA学生アンバサダープログラムが開始され、現在8名の学生がアンバサダーとしてワークショップなどを手掛けている。

生野氏は「AI UNIVERSITYの実現にはインフラが非常に重要。そのため、AIに特化したスーパーコンピューターとして青嵐を導入した」と語る。そのうえで、AI UNIVERSITYを宣言するだけでなく根付かせること、AIウェルビーイングを実現することに青嵐が寄与することを説明した。
さらに、八王子市との協力体制を通じて、例えば文化を再現するようなデジタルツインや、AIを活用した文化への寄与を考えていると述べた。加えて、デジタルツインセンターおよびAIテクノロジーセンターが連携し、同市へのAI活用サポートとして、セミナーや講演会の実施、市民講座の開催などを計画しており、大学として地域全体に貢献していく姿勢を示した。
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア