コミュニケーションや感情へのこだわりから生まれた、
世界で初めての人工知能型教材
――神野さんが人工知能型教材「Qubena」に取り組むことになったきっかけを聞かせてください。
神野:北海道の網走出身なのですが、上京してSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)に入学できたのが大きかったです。大学1年生で「私は小説家としてデビューしています」という人をはじめ、故郷に比べてSFCにはさまざまな人がいて、いい意味で変人ばかり。居心地がよく、「私も何かやってみよう」という気になりました。
その後、学生ベンチャーのような企業を設立。電子出版の会社も立ち上げ、仕事が楽しくなって大学を中退しました。そうこうするうち、「そろそろ、人類はどう生きるべきか、どう進化すべきなのかを突き止めたい、そのためにはテクノロジーとしっかり向き合う必要があるだろう」と思い、シリコンバレーに向かいました。
当時、取り組んでいたのはWebカメラを用いた表情認識。笑っている、泣いている、怒っているなどの感情を数値化するエンジンを開発しました。なぜ、そんなことを始めたのかというと、アメリカでタクシーに乗った際、運転手に「日本人か」と聞かれたため、「そうだ」と答えると、その運転手は「ヒロシマ、イエーイ!」と声を上げました。―瞬、私は日本をバカにしているのかと思い、カチンと来そうになったのですが、運転手は広島を訪れたことがあるということでした。
その出来事を受けて、コミュニケーションの問題について考えました。悪気はないのに誤解が生じ、争いに発展することもあります。しかし、Webカメラによる感情認識エンジンがあれば、気持ちが伝わりやすくなるのではないかと思ったのです。
時をほぼ同じくして、グーグルが人工知能研究を発表していましたし、2005年にレイ・カーツワイル博士が提言した「シンギュラリティ(技術的特異点)」に私は注目していました。「シンギュラリティ」とは、人工知能が人間の能力を超える時点のこと。そのタイミングを、カーツワイル博士は2045年と予測しています。
2045年問題を子どもたちに伝えるため、
日本に帰国して学習塾を設立
――「シンギュラリティ」について、最近よく耳にしますね。
神野:仮に2045年に「シンギュラリティ」が起こるとして、その頃私は60歳近くになっていますから、人工知能が人間の能力を超えることになったとしても、私の人生にはそれほど大きな影響を与えないかもしれません。
では、「シンギュラリティ」の影響を最も大きく受けるのは誰か。それは、子どもたちでしょう。例えば、現在の中学1年生は、2045年には40歳くらいになっています。一般的に見れば、仕事にバリバリ取り組む年齢でしょうし、人工知能の発達によって、多くの職業を人工知能がこなすようになったとすれば、仕事をする上で大きな影響を受けることになるでしょう。
それで、子どもたちに未来のことを伝えなきゃ、と日本に戻り、八王子に塾を作りました。
――そこから、「Qubena」の開発を始められたのでしょうか。
神野:「Qubena」の開発に至ったきっかけは、お話しした通りです。子どもたちに未来についての予測を伝え、人工知能時代をどう生き抜いていけばいいのかという話をして、自分たちで色々と考えてもらいたいと思いました。ところが、学校の宿題や定期テスト、部活や習い事などで子どもたちは忙しく、将来のことを語る時間や余裕はほとんどないのが実情です。
そこで、子どもたちに時間のゆとりを与えるためには、短時間で勉強ができればよいのではないかと考えました。「効率のよい学習方法を」と考えて開発したのが「Qubena」なのです。