本記事は『不登校の子どもと会話がなくなってきたら読む本 会話ができれば「これからを一緒に」考えられる』から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
不登校の本当の原因
不登校の原因は、一次的原因と二次的原因に分かれます。
一次的原因は「特定の嫌な出来事」(友だちに無視された・先生に怒られたなど)を指します。しかし、一次的原因だけで不登校になることはほとんどありません。不登校になる場合の多くは、二次的原因が重なっています。
二次的原因は「自分の気持ちを誰も認めてくれない」という状態です。たとえば、子どもが「友だちに無視された」と親に話したとき、「それぐらいでへこんではダメ」と親が言ったとします。このとき、二次的原因が発生しているといえます。
このように、親・友だち・先生などの仲間に「自分のことを認めてほしい」と思う欲求のことを承認欲求といいます。
一次的原因に二次的原因が重なり承認欲求が満たされない状態が長引くと、登校するエネルギーがなくなっていくのです。
承認欲求をイメージしやすくするために、承認欲求の器を紙コップとして考えてみましょう。まず、人はみんなこの紙コップを1つ持っており、そこには水(承認)が入っています。
登校できている子の紙コップには、常に50%以上の水が入っています。たとえば「小学5年生までは登校できていた」という場合は、小学5年生までは毎日紙コップに50%以上の水が入っていたということです。
しかし、紙コップの水は常に一定というわけではありません。時間とともに増えたり減ったりします。水が増える要因は「水道水や雨水」です。水道水は、親が与えてくれる無条件の承認のことで、雨水は友だちや先生が偶然与えてくれる承認のことです。なお、水道水の水源の豊かさは、親のメンタルによって左右されます。
一方、水が減る要因としては、勉強や部活などをおこなうためのエネルギーとして使用すること(自然減)と、紙コップに穴が開くこと(物理減)があります。物理減の例としては、自分の意見を無視されたり、親や先生から命令をされたり、友だちが返事をしてくれなかったりすることで起きます。このような要因によって、承認欲求の水位は上がったり下がったりします。
ジャッジすると子どもの生命力は弱くなる
「学校には行かずに家でゆっくりゲームをしたい」と子どもが言ってきたとき、将来のことを考え「学校に行きなさい」と言ったとします。確かに将来大人になったときに、学校を休んだことで何らかの支障が出るかもしれません。
しかし「子どもが会話をする目的」から考えると、最初から否定してはいけません。なぜなら、否定すると子どもの生命力は弱くなっていくからです。具体的には、睡眠が浅くなる・朝起きられなくなる・ご飯を食べなくなる、といった症状が現れてきます。
子どもは親に認めてほしくて話しかけてきます。子どもにとって承認欲求は、食欲や排せつ欲といった生理的欲求と同じく、生命力のもととなる欲求です。確かに、食欲や排せつ欲のように「3日間満たされなかったら体に不調が現れる」という緊急性はありません。
しかし、重要性においては同等だと考えます。長期にわたり親から否定され続けると、心に不調をきたし、前述のとおり次第に体も弱っていくためです。食事をもらえないと体はやせ細っていきますが、認めてもらえないと心がやせ細っていってしまうのです。
学校や塾で承認されることで登校できている子も
ここまで読んで「登校している子の家庭でもジャッジをしているのでは?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。
確かにそのとおりかもしれません。筆者の見る限り、多くの親は子どもの「こうなりたい」をジャッジしています。では、なぜ登校できる子とできない子がいるのか。それは、学校の友だちや先生が承認欲求を満たしてくれているかどうかです。塾や習い事も同様です。
ある男子中学生は、通学のために片道電車で30分、自転車で30分、合計1時間の道のりを毎日移動しています。週5日間だと往復で300kmです。これだけの移動を毎週おこなうエネルギーはどこから湧いてくるのでしょうか。それは「休み時間に友だちと話したい」「テストでいい点をとって先生にほめられたい」といった気持ち(欲求)からだそうです。
不登校になると承認欲求を満たしてくれる人が家の中にしかいなくなります。塾や習い事があれば、まだ承認される機会は残されているといえます。しかし、学校に行かなくなったことをきっかけに、だんだんと人と会いたがらなくなり、習い事などにも行けなくなることは多いです。
事例 Lくん:「昼夜逆転・話しかけても無視」の状態から少しずつ変化
中学2年生のLくんは、5月ごろから登校できなくなりました。昼夜逆転し、朝お母さんが起こそうとしても起きません。話しかけても無視され、夜になると、オンラインゲームを始めます。家族が寝静まった深夜でもボイスチャットをしながら大声でゲームをするため、家族もなかなか眠ることができません。
それが理由でお父さんがWi-Fiの通信を切ると「ゲームをさせて」とせがんできます。家族の安眠のため、お父さんが断ると、怒って壁に穴を開けたこともありました。お母さんは心配で食事がのどを通らず、睡眠も満足にできなくなりました。
そこで、お母さんは承認欲求について学び、Lくんに「ありがとう」「なるほどね」といった承認の言葉かけをおこなうことにしました。このときのことを振り返り、お母さんは「最初は、小松さん(『不登校の子どもと会話がなくなってきたら読む本』筆者)に教わったことを大根役者のように、ただ真似をしていました」と話されました。しかし、そのうち自然と自分の言葉で承認の言葉かけができるようになったそうです。
すると、Lくんの態度が少しずつ変わってきました。最も顕著にそれを感じたのは、Lくんが家族で食事に出かけたときです。Lくんが車の中で少し機嫌が悪くなることがありました。その後目的地のレストランに着いたときお母さんに「さっきはごめんね」と謝ってきたのです。そして「いつもありがとう」とも言ってくれました。このとき「Lは変わったな」とお母さんは思ったそうです。
その後も変化は続き、外出しなかったLくんは友だちと釣りに行くようになりました。そして、冬休みになると「俺、登校するわ」と言うようになったのです。そして、言葉どおり登校を始めました。そして、中学3年生になったLくんは「通信制の高校へ進学する」とお母さんに話してくれたそうです。
「会話以外の変化」も再登校に向けた変化のひとつ
雑談レベルが上がってきたら、会話以外でも子どもに変化が出てきます。ここでの「変化」とは、「いままでしていなかったことをするようになる」という意味です。
相談者にこのように話すと、「登校しなかった子どもが登校するようになるんですね?」と言われることがあるのですが、そういうわけではありません。雑談レベルに応じた変化を起こすということです。雑談レベルが0から1になったのなら、それに応じた変化を起こす。同様に、1から2、2から3と、それに応じた変化を起こします。
筆者の経験だと、子どもが自分から「登校する」とか「高校は○○に進学する」と言い出した家庭では、必ずと言っていいほど「会話以外の変化」(たとえば「家事を手伝ってくれるようになる」など)を経験しています。
「会話以外の変化」が起きたら、登校に向けて一歩前進したと考えましょう。ここまで紹介した承認の取り組みによって承認欲求の水位が上がり、エネルギーがたまったことで会話以外の言動にも変化が現れてきたのです。
「いますぐ子どもが登校しないのであれば意味がない」と思っていると、子どもを承認する機会を見逃してしまい、不登校を長引かせてしまう可能性が高くなります。会話以外の変化もみつけて、認めてあげることが大事です。