はじめに
HILLOCK初等部 カリキュラムディレクターの五木田洋平です。2020年度まで探究型の学びを推進していた私立小学校で教員として勤務し、現在はオルタナティブスクールであるHILLOCK初等部の設立と運営に携わっています。これまで探究型の学びを推進してきた現場の教員として、今回は改めて「探究学習」とは何かを考え、その答えを出していこうと思います。
私がこの記事でお伝えしたいメッセージは2つあります。1つ目は「探究的であるというのは『手段』ではなく『生き方』である」ということ。2つ目は「今の日本の教育には探究的な生き方を支えるための『学びの世界を広げるデザイン』が大切」ということです。本記事では探究学習を5年間続けた小学生がどのようなことを学んだのかをお伝えしたあと、探究的な学びが学習者にもたらす変化を、大きく3つに分けてご紹介します。
自ら学びを広げ、深めていった小学生の探究活動
最初に小学5年生の男子児童が作成した探究発表会の資料をご覧ください。
彼が好きだった新海誠の「天気の子」という映画と、手塚治虫の「ミノタウロスの皿」と「火の鳥」という漫画を題材に探究しました。この資料は「作品にはメッセージが込められており、そのメッセージは社会や世界からの影響がある」ということを発表したときの資料です。
これは国語や社会の授業で扱ったものでもありませんし、授業で全員が触れた題材でもありません。彼が自分の好きなものから気づきを得て、考えたことをポスター発表の形式にまとめたものです。
また、別の女子児童が作成した発表資料もご覧ください。
彼女は国語の授業で好きになった短歌や和歌をきっかけとして、平安時代に興味を持ちました。そして、そのころの人々の暮らしに興味を持ち、知りたい情報がすぐ出てくる現代社会に生きる私たちとは違う想像力を発揮していたことを知りました。
次にその「想像力」というテーマにさらに興味を持ち、「そうぞうする」ということは「何かをクリエイト(創造)すること」と「イメージ(想像)すること」の2つがあることを知りました。しかし、彼女は日ごろの生活の中から人の心を思う推し量る心も大切な「そうぞう力」なのではないかと考え、最終的には人の心を想う「そうぞう力」にあたる字を自ら考え発表しました。また、その「そうぞう力」への理解を深める過程でさまざまな人へのインタビューやアンケートリサーチなども行っていました。
2人の児童は私がほとんどサポートすることなく発表会を迎えました。自分の興味を見つめ、自ら学んでいったからです。小学5年生として、2人は確かに優秀だったと言い切れます。しかし、今回紹介した児童だけでなく、教科の枠にとどまらず自分の好きなものや興味のあるものをきっかけに学びを広げ、深めていった児童は私の担当した学年に多くいました。
この資料を見られた方から「どうしてこのような高度なことが小学生にできるのか」といった感想をいただくことも度々ありました。しかし、ここでの本質は「高度な学習をやろうとした」ことではなく「自分の興味を突き詰めた結果、高度な気づきを得た」ということです。そして、それを実現できたのは高度なことを教えたからではなく、探究活動を通じて、日常的に「学びの世界を広げていた」からと断言できます。