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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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塾におけるEdTechツール活用事例

EdTechへの「依存」から「活用」へ――自律的な学習者を育てるために必要なことは何か?


 AIを活用し、子どもたちの苦手な問題を集中的に出題するアダプティブな教材が増えています。こうした教材は効率的な学習を実現し、教員・講師、児童生徒双方の負担が軽くなるといったメリットがあります。しかし、便利なEdTechに「依存」してしまうことで「かえって自律的な学びができなくなってしまう危険性もある」と、自立型学習塾「C.school」を運営し、公立中学で教員の経験もある風間亮さんは警鐘を鳴らします。実際の子どもたちの様子とともに、その理由と解決策を考えます。(編集部)

EdTechへの「依存」とはどういうことか

 「社会はAI教材がなかったのでできませんでした」「英単語のAI教材は100点にしました。次は何をすればいいですか?」「理科の用語をAI教材で100点にしたんですが、テストはできませんでした」

 これらはこの1年、いわゆる「AI教材」を取り入れて、私が子どもたちに言わせてしまったことです。

 子どもたちが「何を学び、何を理解し、何ができていないのか」――自身の学びをメタ認知できていない状態に陥らせてしまったのです。『主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック』(大島純、千代西尾祐司、北大路書房、P.54-55)では、以下のように言及されています。

 メタ認知と並んで、主体性のある学びを実現するために重要だと言われているのが、自己調整学習です。自己調整学習は、学び手が学びに取り組む際に、”それが自分にとってどれほど大変なことか”、”自分ができるようにするにはどうしたらよいか”を自分で考えて、実際に学習を展開していく中で自分の学習の出来具合をチェック・モニタリングして、学びの目標の達成にむけて改善を施していくという一連の流れを意味しています。

 このメタ認知・自己調整学習をするプロセスを、子どもたちから奪ってしまっていたのです。

 「AI教材」を「塾のプリント」に置き換えても成り立つことなので、決して「AI教材が悪い」のではなく、使い手である私が「教材に依存させてしまう環境」をつくってしまったことが問題です。しかしながら、私自身の経験から、大人側の意識として、紙の教材よりもAI教材の方が「効率化の罠」にはまりやすく、子どもたちが主体的に学ぶ機会を奪ってしまう可能性があると感じています。ここ1~2年、AI教材のセミナーに登壇者としてお呼びいただき「塾運営の効率化」や「AI教材のコストパフォーマンスの良さ」を「主体的な学習者を育てる」という観点抜きに語ってしまった反省がありました。本来であれば子どもたちの学びにより良い効果をもたらすはずのAI教材ですが、かえって学びを阻害する使い方をしていたのです。

 こうしたEdTechへの依存から脱出し、より効果的な活用を提案できればと考え、本記事を執筆させていただきました。塾現場の試行錯誤を共有させていただき、何かのヒントや議論のきっかけを提供できれば幸いです。

PDCAの「PCA」を奪われた子どもたち

 私が運営しているC.schoolでは「生涯学び続け、自分自身で自らの未来を切り開く人に育ってほしい」という思いを持って取り組んでいます。学習において、まずは面談を丁寧に行い、本人が自発的に目標設定をした上で学習計画を立て、さらに適宜見直しをしながら行動していけるように関わっています。つまり、最終的には「子どもたち自身がPDCAを自力で回せる」ことを目指して伴走しています。

 それにも関わらず、生徒に冒頭の発言をさせてしまいました。子どもたちの認識では「ひたすらDoだけやらされている(与えられた行動をただこなしている状態)」形になってしまっていたのです。

シャンク&ジマーマンによる「自己調整の諸段階と諸過程」の図(先述した『主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック』に掲載)
シャンク&ジマーマンによる「自己調整の諸段階と諸過程」の図(先述した『主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック』に掲載)

 上図は自己調整学習の段階を表したものです。「できるまでひたすらやり続けよう」という思想で教材を使ってしまうと、短期的な結果にはつながることもありますが、自己調整学習とは離れてしまい、自ら学ぶ力をつけることにはなりません。また『「深い学び」の科学』(北尾倫彦、図書文化社、P.98-99)の中では、テストの得点は、統計的にメタ認知方略と関連付いていることも示されています。専門用語が多いため、詳細はこれらの書籍を参考にしていただければと思いますが、主体的な学びの姿勢を育み、テスト得点で結果を出す上でも、自らの学習を自分自身で適切に把握することが重要であることがわかります。

近視眼的になりやすい現場で、教育者がツールに依存する危険性

 私はもともと公立中学校の教員で、現在は学習塾を運営しています。どちらにしても一定数の生徒と関わり、彼らの成績向上に責任を負います。学校では実力テストや定期テストが定期的に行われますし、塾では模試があります。私自身の考えとしては、生徒一人ひとりを「自分自身でPDCAを回すことができる自律的な学習者」として育てることで、短期的にも学力向上を実現できると感じています。しかし一方で「実力テスト」「定期テスト」「模試」という存在は、子どもたちの現在地を測る位置付けに加え、私たち教える側にとって実力測定のようなものでもあり、時に手っ取り早い学力向上を促すものです。全生徒の学力を一律で向上させることができれば問題ありませんが、どうしても一定数の生徒は学力が伸び悩みます。

 そんなときに「問題を自動生成します。これをひたすら繰り返し取り組めば定期テストで80点は取れます。しかも先生の手間が省けます」といったAI教材の宣伝を聞き、時に近視眼的になり、ツールに依存してしまった私自身がいました。その結果として、子どもたちにもツールに依存させてしまったのです。

 また、中学校の教員時代には学年で100人ほどの生徒を担当し、現在塾では約30名の中学生を見ていますが、学校では労働リソースが限られているためにオペレーション合理性の追求を求められますし、塾は企業ですから経済合理性の追求も同時に求められるので、「効率的に学力アップ」は魅力的に映ります。しかし、本質的な「学ぶ力の育成」と「学力向上」には、私たち自身がAI教材の正しい使い方と危険性を認識し、子どもたちに伝えていく必要があるのだと感じています。

次のページ
「学び方」を伝え「教材」を一手段として選ぶ力の育成

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この記事の著者

風間 亮(株式会社Bee 代表取締役/C.school 塾長)(カザマ リョウ)

 慶應義塾大学理工学部卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社を経て、認定NPO法人Teach For Japan派遣のもと、福岡県田川郡の中学校で英語科教員を勤める。その後、2019年5月に「なりたい自分に出会える塾」というコンセプトを掲げ、学習塾C.schoolを創業。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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