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イベントレポート(アクティブラーニング)

生徒主導で校則を見直す「ルールメイキング」とは? プロジェクト実践校の事例を紹介

シンポジウム「ルールメイキング2021」レポート【前編】


 「ルールは自分たちで考えて、決める」。認定NPO法人カタリバが2019年からスタートした「ルールメイカー育成プロジェクト」は、生徒が主体となって学校のルールや校則を考え、学校や保護者とともに見直していくプロジェクトだ。2020年度の経済産業省「未来の教室」実証事業にも採択され、全国のモデル校でプログラムが進められてきた。2月23日にカタリバが開催したオンラインシンポジウム「ルールメイキング2021」では、モデル校の生徒が「ルールメイキング」の実践事例を語ったほか、ゲスト有識者によるパネルディスカッションなどが約3時間にわたって行われた。本稿では前編として、広島県の安田女子中学高等学校と、岩手県立大槌高等学校で2020年度に実践されたルールメイキングの事例を紹介する。

失敗覚悟の「飽きさせない」工夫でプロジェクトを実行

 実践事例発表では、2020年度にルールメイカー育成プロジェクトを実施した2校の生徒と教員が登壇した。

広島県にある安田女子中学高等学校
広島県にある安田女子中学高等学校

 最初に登壇したのは、広島県広島市にある私立の中高一貫校、安田女子中学高等学校(以下、安田女子)だ。1915年に開校し、幼稚園から大学院まで続く同校は、地元広島県の伝統校として人気がある一方、今回のルールメイキングやICT活用などの新しい取り組みにも積極的に挑戦している。

 登壇した高校2年生の花本さんは、伝統校ゆえの厳しい校則については「どうせ変わらない」と感じていたという。しかし「もしルールが変わるのであれば、自分の知らないところで変わっていくのはいやだ、自分も関わりたい」と思い、プロジェクトに参加した。

 同じく2年生の田中さんは、ルールメイカー育成プロジェクトが始まる半年前に生徒会で初めてルールメイキングの活動を行い、自分の意見が通る場があることを知った。「学生人生で最も成長できる場所だと感じ、未来を生きる後輩にいいものを残したいとの思いから参加した」と、プロジェクトに取り組んだきっかけを語った。

 メンバーは中学1年生から高校2年生までの約20名で、週に1回放課後に活動を行った。プロジェクトでは意見収集からルール立案、新ルール施行まで、9つのステップに分けて実行していったという。今回の事例発表の中で、取り組みやアイデアがすばらしいと思ったポイントを、順を追って紹介していこう。

6月のスタート後、デジタルとアナログのさまざまなツールを活用しながら進めていった
6月のスタート後、デジタルとアナログのさまざまなツールを活用しながら進めていった

(1)徹底した話し合い

 まず、特徴的だったのは「徹底した話し合い」だ。現在の校則を「変わらず大切にしたいもの」「検討余地のあるもの」の2つに分類し、根気よく話し合いを続けた。「ルールを変えることに先走ったメンバーが出る中、途中でつまずかないよう、何度も話し合いをした」という。そして、アンケートなどで多くの意見を集めた上で「緊急性」と「重要性」から見直す校則を3つに絞った。

「スマホの持ち込み」「放課後の立ち寄り」「保護者同伴でないと許可されていない場所への出入り」の3つの校則を見直すことが決定
「スマホの持ち込み」「放課後の立ち寄り」「保護者同伴でないと許可されていない場所への出入り」の3つの校則を見直すことが決定

(2)意見が出やすい環境づくり

 学年に関係なく意見が出やすい環境づくりも心掛けた。話し合いの場を小人数制にしたほか、「KJ法」を取り入れた。KJ法とは、文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した手法で、カード形式でアイデアを出しグループ化してまとめていくものだ。今回のように多様な意見が多く出る場合に非常に適している。ここでは、自分の意見を可視化する大切さを学び、共有後にはフィードバックも行った。

(3)学校全体の興味を引き付ける戦略だて

 そして、参加者からも高い評価を受けたのが、この「学校全体が興味を持てるように戦略をたてた」ことだ。ルールメイキングに対して反対意見を持っていそうな先生を会議に招待したほか、あえて先生の目につく場所で活動を行ったという。

 そして、全校生徒に対してのアプローチの1つとして、生徒がよく通る通路の壁に自由に意見を書いてもらうための模造紙を掲示した。さらにシールを用意して、賛同できる意見に対して貼ってもらうようにした。こうした柔軟な発想はなかなか大人からは出てこない。「飽きさせないよう失敗覚悟で行ったが、予想を超えて周知や興味を引くことにつながった」と、その手ごたえを語ってくれた。

 そのほか、保護者へのWebアンケートや、県警へのヒアリング、生徒指導の先生に現在の校則が存在する理由を聞くなど「学校の誰もが納得し、運用しやすい校則改定」を目指したという。

 こうして集めた意見やデータをもとに新ルールを提案し、学校に提案を行った。その後、学校との対話を重ねた結果、ついに3つの校則の改定が決まり、2021年4月から適用されることになった。

改定された新ルール。「自主自立」「世の中の移り変わり」「生徒先生がより生活しやすい環境をつくる」の3点がベースとなっている
改定された新ルール。「自主自立」「世の中の移り変わり」「生徒先生がより生活しやすい環境をつくる」の3点がベースとなっている

(4)校則改定にとどまらない

 しかし、安田女子のプロジェクトは校則改定で終わらない。「校則が変わったという事実だけに目を向けるのではなく、その背景にある思いを知ってほしい」と、立ち止まったときの判断材料と校則が変わっても大切にしたいことの2つをキャッチコピーに託し、全校生徒に伝えた。

全校生徒に校則に込めた思いを知ってもらう
全校生徒に校則に込めた思いを知ってもらう

 最後に「一つひとつは小さいことだとしても、在校生のこれからにとっても大きな一歩となり、喜びと達成感があります。年齢に関係なく自由に発言する場が学校の中にできました。安田女子の未来がとても楽しみです」と語り、発表を締めくくった。

 発表を聞いた苫野氏は「みんなで対話して、いい考えを練り上げていくプロセスが大事。このプロセスを自分たちで試行錯誤しながら考え上げたことがすばらしい」と、安田女子の取り組みを称賛した。

安田女子のメンバーと、モデレーターを務めた、熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授の苫野一徳氏、カタリバ代表の今村久美氏
安田女子のメンバーと、モデレーターを務めた、熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授の苫野一徳氏、カタリバ代表の今村久美氏

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「生徒宣言」から始まったルールメイキング

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、プログラミング教育やICT教育、中学受験、スマートトイ、育児などの分野を中心に、取材・執筆を行っている。また、渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足し、地域の子ども達に向けたプログラミング体験教室などを開催している。一児の...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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