なお、自治体としては県職員のテレワークが評価され、第16回に佐賀県も会長賞を受賞しているが、教育クラウドによる教職員のテレワークが評価された受賞は、西条市が初となる。
市内の25の小学校、10の中学校で、約8600名の児童生徒と850名の教職員を抱える同市では、教職員が児童生徒および自分自身と向き合う時間を創出するため、日本マイクロソフトのパブリッククラウド「Microsoft Azure」と「Microsoft Office 365 Edition」による、校務支援システムおよびテレワークシステムの構築に2015年度から着手した。
テレワーク導入の背景として、従来は校務を行う場所や時間に制約があり、育児や介護といった家庭環境の変化に対するワークライフバランスの確立が困難であったことを挙げた。そこでセキュリティ性・堅牢性・信頼性を兼ね備えたパブリッククラウド上でシステムを構築することにより、校務の省力化と利便性の向上を実現した。児童生徒の名簿・成績表・通知表・保健管理、指導要録、教職員服務事務処理、教材作成・共有など、すべて校務支援システムを通して行うことができる。
パブリッククラウドベースのシステムの試験運用は2015年11月からスタートし、2016年4月から本格的に導入された。対象は、教育委員会の職員を含めた小・中学校の教職員850名で、2019年2月時点で59.2%が利用しているという。テレワークでは個人所有のPCを利用し、手元にデータを保持しないデスクトップ仮想化で機密性を担保しつつ、普段と変わらない操作性で校務を行える。ログインは、メールで送付されるワンタイムパスワードと、ユーザーのみが知る4桁のPINコードを組み合わた二要素認証が採用された。
西条市では、校務支援システムの導入自体は2013年6月から数校でモデル的運用を開始しており、2014年度末時点で、校務にかかる時間をICT導入前に比べ年間平均96.2時間ほど短縮し、一定の成果を上げていた(アンケートによる調査)。ただし、校務支援システムはセキュアな環境で使う必要があり、そのしがらみがシステムの有効活用や満足度に悪影響する懸念も同時に抱えていた。そこを解決したのが、テレワークによる新しい校務支援システムだ。2018年度の速報値ベースでは、さらに改善が進み年間162.6時間の短縮が実現できた。また、これによって教職員が児童生徒と向き合う時間を増やせたことで、全国学力・学習状況調査の結果がICT導入前に比べ11.0ポイント上昇するなどの成果を上げているという(2014年度末時点は平均5.34ポイントの上昇)。教職員にも喜ばれ、祖母の介護で悩んでいた教職員から担当者が「これがなかったら休職していた」と電話で直接感謝の言葉を述べられることもあったそうだ。
西条市教育委員会の渡部誉氏は、「学校教育はブラックであるといわれるが、けっしてそうではないと思う。多様性を認め合い、その可能性を探る。ダイバーシティという考え方について自身も勉強不足だったが、あらためて自分たちにも気づきを与えてくれるシステムだった」とコメントした。
また、日本マイクロソフトの執行役員常務で、日本テレワーク協会の理事も務める手島主税氏は、「テレワークとして共通で行うべきは、チョイス(選択肢)を与えること。単なる遠隔コミュニケーションというわけではない。日本の人口が減ってきている中で、子どもたちの多様性のある文化を守りたい」と述べた。