お金はどうやって稼げる? 賃労働と起業家精神について
あなたは将来、どんな仕事がしたい? もしかしたら、仕事をしたくない、という子もいるかも。でも、あなたが今、ご飯を食べられるのも、服を買えるのも、暖かい家で暮らせるのも、おうちの人が仕事をして、お金を稼いできてくれるからなのです。
お金を稼ぐことの一番いい面は、使い道を自分で決められるところ。
ただし、どんな仕事もしていいわけではないし、何歳でも働けるわけではありません。ノルウェーにも、子どもの労働についての決まりがあります。ノルウェーでは法律で、お金をもらって働いていいのは(賃労働と言う)、13歳以上と決められているのです。ただし、例外もあります。たとえば子役として芸能活動する場合や、おうちが農場をしていて、手伝う場合など。ただし12歳やそれより下の年齢の子が、お金を稼ぐ方法がないわけではありません。どうすればいいか、今回紹介していきます。
日本では、仕事をしていいのは、中学校を卒業(満15歳の3月31日)してから。ただし、中学生でも、労働基準監督署の許可をとれば、学校の授業時間外に、新聞配達など健康や福祉に有害でない仕事ができます。テレビや映画などの子役は、小学生以下の子もできます。
子どもが自分で稼いだお金の使い道を決められるかについて、法律ではどう定められている?
ノルウェーの児童保護法では、14歳かそれより下の子が稼いだお金や、おこづかいとしてもらったお金の決定権は親にあると定められています。でも15歳以上になると、自分のお金の使い道は自分で決め、管理できます。ただし17歳かそれより下の子が、その子にとってよくないことに、お金を使おうとしたら、おうちの人には止める権利があります。あなたがどれぐらい自由にお金の使い道を決めてよいか、おうちの人と話し合っておくといいでしょう。
日本では、未成年者(現在20歳未満、2022年4月以降は18歳未満)が働いて得たお金は、直接本人に払われることになっていて、代わりに親に払ってはいけません(労働基準法より)。一方で、日本の法律では、未成年者のお金や法律の手続きなどを、子どもに代わって親がする権利・義務があります。このことを親権と言います。そのため、未成年者がよくないことにお金を使おうとした場合には、それを止める権利が親にはあります。
児童労働の今と昔
子どもたちを児童労働から守る最初の法律は、19世紀の初めに、英国とドイツの議会で決められました。当時、急速に広がっていた大きな工場や炭鉱で、子どもが普通に働いていたのです。ノルウェーで工場が多く建てられるようになったのは、それから少し経ってから。そのため1892年に新工場監督法が議会で決められ、児童労働を禁じる法律が定められたのも、19世紀の終わりになってからでした。
今ではほとんどの国で児童労働が禁止されています。1989年に国連で子どもの権利条約が採択されたのも、多くの国で児童労働が禁止されるようになった大きなきっかけとなりました。それでもなお、世界では1億6,800万人もの5歳から17歳の子どもが、児童労働をしていると言われています。1億6,800万人と急に言われても、ピンとこないかもしれませんね。では、それだけの数の子どもが手をつなぐと、地球をぐるりと4周できるって言えばわかりやすい?
もしこの倍、子どもがいたら、地球から月まで行けちゃうって言ったほうが、ピンとくるかな?
13歳未満の子にできる仕事って?
ノルウェーでは13歳になっていない子を、雇い主(雇用者とも言う)は雇えません。雇用者とは、誰かを雇い、賃労働をさせる人や会社などの団体のこと。今12歳だけどお金が必要な子は、「そんなの、ずるい!」と思うかも。でもこの法律はみんなを守るためにあります。かつては7歳、8歳の子が、当たり前のように工場などで1日中働いていました。家計を助けるため、働かざるをえなかったのです。大変だし、遊ぶ時間はほとんどありませんでした。大変すぎて病気になる子や、学校に通えなくなる子も。だからノルウェーの政府はずっと昔、子どもたちの賃労働を禁止する法律を作ったのです。
ただしまだ13歳になっていない子(日本では中学生以下)に、お金を稼ぐ手段がまったくないわけではありません。たとえばおうちの人に「お手伝いするから、おこづかいちょうだい」ってお願いできるよね?
もしくは、親戚や近所の人の簡単なお手伝いをして、お金をもらうこともできます。お使いに行くとか、芝刈りをするとか、雪かきをするとか。そしてこの他にも方法はあります――いらなくなったものを売ること。飽きて使わなくなった古いおもちゃや本を売ってもいいか、おうちの人に聞いてみてはどう? 「いいよ」って言われたら、インターネットで出品しましょう(日本だとメルカリなど。ただし親の同意が必要)。同じように、アクセサリーやブーケやイラスト、絵といったハンドメイドの品物を売ることもできるよね。
日本では中学生以下を働かせることは労働基準法で禁じられています。ただし特別に、労働基準監督署の許可を得れば、中学生でも特定の仕事で働くことができ、テレビや映画などの子役では小学生以下の子でも働くことができます。
13歳になると生まれる、お金を稼ぐ新たな手段
13歳になると、新聞配達や掃除やお店での包装の手伝いといった、簡単なアルバイトができます。あなたが住む町に、たとえば食品加工場があるとすれば、そこで働くこともできます。
ノルウェーでは仕事を始める前、雇用者が賃金や労働時間について定めた労働契約書や就業規則を書面で提示しなくてはならない、と定められています。15歳になっていない場合、保護者の同意が必要です。15歳になれば、自分で労働契約を結んで、自分の意志で仕事を始められます。労働契約を破棄して仕事を辞めたいと思ったら、あなたが何歳であろうと、自分で破棄できます。ノルウェーではこのとき、これまでの仕事内容と就労期間を記載した、就労経験証明書を、雇用者に発行してもらう必要があります。このノルウェーの就労経験証明書も、仕事をしたことの証。新しい仕事を探すとき、役に立つものなのです。
仕事を探すときは、お父さんやお母さんといった周りの大人に相談することも大事。そうすることで、職場から提示されている賃金などの労働条件が適切かどうか、大人にチェックしてもらえるのですから。
日本では、中学生は労働基準監督署の許可がないとアルバイトできません。高校生の場合には、校則でアルバイトを禁じている学校も多いので、まずは学校に確認しましょう。また、18歳未満の場合には、たとえ親が許可を出しても、深夜労働(夜10時から翌朝午前5時まで)はできないことになっています。
起業家精神――自分で職場を作ろう!
起業家精神とは、新しい可能性を見いだし、挑戦しようとする心意気を示すすてきな言葉。
起業家とは、自分のアイデアでお金を稼ごうとする人のことを表す言葉。解決されていない課題や、なしとげられるべき事柄を発見し、それらを解決する術を見いだす人のことです。何歳であろうと、起業家になれます。今、ノルウェーでは若い人に起業のことを教える学校も増えてきています。「若き起業家」(Ungt Entreprenørskap)という団体も作られました。この団体は、事業の元になるアイデアを思いついた子どもや若者の支援をしています。でも事業を始めるのは、簡単なことではありません。事業の営み方については決まりがありますし、自分のアイデアをどう実行に移すか計画を立てねばなりません。幸い、若い人たちが事業を始めやすいよう、若者の起業についての規則は、大人に比べて簡素化されています。といっても、お家の人や学校の友達や知り合い、「若き起業家」の相談員から助けを借りたほうがいいことに変わりはないのです。
日本でも、何歳でも起業家になれます。小中学生でもアプリ開発やプリン販売など、さまざまな起業事例があります。税務署に開業届を出せば、何歳でも個人事業主になれます。一方で、会社設立は印鑑証明が取得できる15歳以上からとなっています。
実際に起業までしなくても、家庭の不用品や古本を販売しておこづかいを稼ぐことは手軽にできます。起業する場合はもちろん、不用品を売る場合も、未成年者は単独での法律行為が禁じられているため、親の同意が欠かせないことも覚えておきましょう。
起業家―Facebookの冒険
起業家として成功できるのは、大人だけとは限りません。アメリカ人のマーク・ザッカーバーグは、2004年、20歳という若さで友達とSNS(ソーシャルネットワークサービス)のFacebook運営を始めました。Facebookを使う人(アクティブユーザー)の数は、2014年時点で13億2,000万人まで達し、10年でFacebookは世界最大のインターネット上の社交場に。マーク・ザッカーバーグが高校でプログラミングを学んだのが、Facebookの冒険の始まり。大学に進んだ彼は友人たちと、あることを思いつきました。大学生が自分のプロフィールを公開して、交流できるサイトを作ったらおもしろいんじゃないかって。ザッカーバーグはそのページを、Facebookと名付けました。やがて他の大学の学生までFacebookを使いだし、またたく間にアメリカ全土に、さらに世界の国々へと広まっていきました。
ザッカーバーグが起業家として成功したのは、思いついたアイデアを発展させる能力を持ち合わせていたから。事業を起ち上げ、優秀な協力者を雇い入れ、そのアイデアを元にお金を稼ぐ術を見いだしたのです。
ザッカーバーグは2014年、アメリカの長者番付で11位になりました。当時の総資産は、340億ドル。340億ドルは、ノルウェー人41万9,000人の年収を合わせた額に相当します。340億ドルは、たとえば世界一高いサッカークラブと、世界一高い車2,900台を買ってもまだ、月を1周回るお金が残るほどの大金です。
おこづかい制って、いいと思う?
ある調査によると、ノルウェーでは7歳から15歳の子どもの10人につき3人が、おこづかいをもらっているとのこと。昔は今より、おこづかい制にする家が多かったそうです。たとえば1998年、ノルウェーの7歳から15歳の子どもの10人につき8人が、おこづかいをもらっていたんですって。
あなたはおこづかいをもらってる? おこづかいは必要ないか、それともおこづかいとして決まった額をもらうほうがいいのか、おうちの人と話し合ってみて。定期的におこづかいをもらうのと、ほしいものが出てきたらそのたびにおうちの人に買ってもらうのと、どちらがいいのかな?
話し合いのとき、挙がるであろう意見
- おこづかいをもらうことで、子どもはお金の使い方を学べるんじゃない?
- 親からおこづかいをもらっても、なににお金を使ったのか全部把握し、管理するのは子どもには難しいのでは?
- 子どもはおこづかいをもらうためにお手伝いをすることで、働くことの大切さを学べる。
- 子どもはお金をもらわなくても、お手伝いをするべき。でないと、家族の一員として責任を持ち、協力することが学べないじゃないか?
日本では、小学校低学年から7割の子がおこづかいをもらい始め、中学生になると8割の子がおこづかいをもらっています。ただし、小学校低学年のうちは時々もらう子が多いけど、高学年になると月に1回定額をもらう子の割合が増えます。おこづかいの平均値は、中学生が2,536円、高校生が5,114円。
借り方、使い方、税制、消費、銀行についても丁寧に
本書『北欧式 お金と経済がわかる本』ではこのあと、お金に関する様々なトピックを紹介、解説していきます。ノルウェーと日本との違いを感じながら学ぶことで、日本の習慣や文化だけが唯一絶対ではないことがわかるでしょう。ぜひ周りの子どもたちに読ませてあげてください!