はじまりはプライベートな趣味プロジェクトだった
「embot」のはじまりは、2014年の夏に額田さんが仲間と3人ではじめたプライベートプロジェクトだ。
「秋葉原でパーツを探して回路設計をするところからやっていました。現在のロボット本体はダンボール製ですが、3Dプリンターやアクリル板で作ったプロトタイプもありましたね。レーザーカッターで材料を切り出すこともやって、すべて手作りでした」
当初は教育用途のビジョンはなく、オリジナルのロボットプラットフォームを作る過程で、コンセプトがプログラミング学習に定まっていく。ワークショップを開くといったことをしているうちに評判が高まり、2年ほど前に額田さんの勤務先であるNTTドコモ内でプロジェクト化されることとなる。そして、開発スピードも加速した。
先行体験版から製品版への道のり――現場の声で改善を繰り返す
昨年(2017年)7月に先行体験版の販売を開始して以降、現場の声を開発に生かしてさらにブラッシュアップを続けることになる。この間に全国で50回以上の子ども向けワークショップを実施し、先生向けワークショップも今年の夏だけで11回行った。
ワークショップでは先生に十分にヒアリングするのはもちろん、子どもたちの反応を直接見ることにもこだわっている。
「子どもに感想を聞いても『楽しかった』といった、良い答えしか返ってきません。実際に取り組んでいる様子をひたすら観察して、『どの作業で苦労しているか』『どんな表情をしているか』など、たくさんのヒントをもらいました」
額田さんはプロジェクトメンバー全員に、必ず一度はワークショップに行くよう呼びかけ、メンバーは開発や営業といった担当に関わらず現場に足を運んだという。
「作り手が『売る感覚』を持っていなければいけないし、売り手が『作る感覚』を持っていなければいけないと考えています」
プロジェクトメンバーの視点を広げ、役割の垣根をなるべく低くしたいというチーム作りの工夫がここにあるようだ。
では、具体的にどんな声が生かされ製品版につながったのだろうか。
ハード面の工夫――扱いやすさを重視
先行体験版では、例えばLEDが芯から抜けやすかったり、基板の入ったケースと電池ボックスが分離していたり、扱いづらいポイントがいくつか見えてきた。そこで、LEDを安定する設計にし、基板と電池ボックスを一体化させボックス型にするなどして、一つひとつ解決していった。
「パーツの接続に戸惑ってプログラミングの敷居が上がるのは避けたいし、そうした電子工作部分は私たちが訴求したいポイントではないと判断しました。不要な障壁は極力減らして、すぐにプログラミングの主題に入れることにこだわっています」
では、いっそロボット本体もダンボールで作るのではなく、完成形で提供することも考えたのだろうか?
「この工程は必要だと考え、あえて用意しています。『プログラミングを学ぼう』と思って学ぶのではなく、何か『こういうものを作りたい』という気持ちがあって、そのアプローチとしてプログラミングをすることを伝えたいんです。ダンボールでロボットを作るプロセスがあるほうが、その感覚に近づきやすいと考えています」
素材を扱いやすいダンボールにしたのも、作ることを身近に感じてほしいからだ。現場の声を聞きながら、製品としてのポリシーをより明確にしていったことがわかる。