SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

次回のオンラインセミナーは鋭意企画中です。準備が整い次第、お知らせいたします。

EdTechZineオンラインセミナー

EdTechZineオンラインセミナー

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

好事例から解き明かす、大学経営とデジタル人材育成

苦戦が続く大学のデジタル教育──情報学部の新設は大学経営の起爆剤となるのか?

好事例から解き明かす、大学経営とデジタル人材育成 第1回

大学におけるデジタル教育の課題とデジタル教育推進機構の設立

 では、それを受け入れる大学側の状況はどうだろうか。結論から言えば、筆者は大学におけるデジタル教育に非常に危機感を抱いている。以前は大学で情報系を学ぶ学生の少なさが最も大きな課題であったが、これについては上述の大学・高専機能強化支援事業にて解消する見込みであり、現在では楽観視できる状況である。

 一方、現在の課題は2つある。「(1)大学教員の質・量の不足」と「(2)標準的なカリキュラム・教材等の不足」である。1つ目の大学教員の質・量の不足はシリアスな課題であり、教員のレベルが低いという質的な問題と、人数が足りないという量的な問題の両方を含んでいる。2つ目の標準的なカリキュラム・教材等の不足は、情報系に限らず従前から大学教育の課題のひとつとして挙げられているものであり、教育内容の質の担保を目指すものである。

 以上の課題に対して、筆者は2つの提言を行いたい。1つ目の提言は「民間人材とノウハウの参入促進」である。この施策として、まずはIT企業のシニア社員を大学教員として大量に送り込むことを提言したい。これは、シニア人材のキャリア開発としても最適であり、60代となりエンジニアとして最新のテクノロジーを駆使して活躍することは難しくても、学生にコンピュータの基礎知識や初歩的なプログラミングを教えることは可能である。これは大学とシニア人材の双方にメリットがあり、ぜひお勧めしたい施策である。また、教育産業やIT業界といった民間企業のノウハウやデータを授業で活用することもお勧めしたい。

 だが一方で、これらの施策には、大学側とIT企業側の高度な相互理解と法令の規制緩和が必要であり、政府に対してはデジタル分野に限った時限的措置でもよいので大規模な規制緩和を期待したい。

 2つ目の提言は「カリキュラムや教材の標準化および普及促進」である。1つ目の提言として民間人材の流入を提言したが、大学には現在でも大勢の教員が在籍しており、特に理科系の学部を設置している大学であれば、既存の大学教員へデジタル教育を施して、彼らが十分な教育を行えるようにすることが対策の本筋といえる。そして、それを下支えする施策として、カリキュラムや教材の標準化やその普及促進も必要である。

 多くの読者は「理科系の教員が大勢いるなら、デジタル教育も問題ないのでは?」と考えると思われるが、現実はまったく異なる。理科系で最も大きい学部は工学部であり、学科を挙げれば、機械、電子、土木、建築、材料などハードウエアに特化した専門分野が多数を占め、教員の多くはデジタル・ITといったソフトウエアエンジニアリングを学んでいない。自分たちも教育を受けていないのだ。

 筆者は仲間たちと共に、2024年に「一般社団法人デジタル教育推進機構」を設立し、これらの課題解決を図っている。本稿では同機構の活動について詳しい説明は省くが、同機構は民間企業の活力を軸とした産学連携の組織であり、すでに200校近い大学とさまざまな論議を始めている。もしご興味があれば、ホームページ等をご覧になってご連絡いただければ幸いである。

 さて、米国や中国・インドといったデジタル大国では、大学が国全体のデジタル教育をリードしていると聞く。日本では、このままでは大学は国をリードするどころか、足を引っ張る存在になるのではと危惧される。「デジタル・ITの分野は、日本は先進諸国より周回遅れだ」とよく言われるが、このままでは周回遅れどころか、世界最低レベルになる可能性すらある。そこから脱却するための重要な施策のひとつが大学におけるデジタル教育だと筆者は考えており、本稿のような議論がもっと活発かつオープンに行われることを期待している。

本連載の目的と構成

 本連載の目的は、大学経営に携わる執行部の方々――理事会メンバーや職員組織のマネジメント層、学長・副学長・学部長といった教員組織のマネジメント層の方々に対して、デジタル教育に関する「推進上の知恵やノウハウ」を伝えることである。

 本連載の構成は、第1回で現状と課題を述べた後、第2回以降は先駆的な取り組みを行っている大学を順次取り上げる。前節で大学のデジタル教育に関する課題を連ねて危機感を煽ったが、もちろんすべての大学がダメというわけではなく、デジタル教育に意欲的に取り組んでいる大学もある。本連載では、それらの大学のキーパーソンにインタビューを実施して取り組み内容を紹介するとともに、インタビューから抽出できる知恵やノウハウを筆者が解説する。

 なお、大学のデジタル教育というと、「最新のLMS(Learning Management System:学習管理システム)を導入しました」といった記事をよく見かけるが、本連載ではそのような「箱物」は評価しない。それよりも、どのようなカリキュラムで、どのような教え方をして、教員たちをどのようにやる気にさせて、実際にどのような人材(学生)を育てているのかといった、「実効的な活動」に着目したい。

 また、ピックアップする大学の種類も、国立大学と私立大学、理系大学と文系大学、都心部と地方、女子大など、極力違うタイプの大学を取り上げる。大学の種類により、抱えている課題や対処方法が違うと考えるからである。

 次回(第2回)からは素晴らしい取り組みの大学を次々と取り上げる。ぜひ期待していただきたい。

この記事は参考になりましたか?

この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

 1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


この記事をシェア

EdTechZine(エドテックジン)
https://edtechzine.jp/article/detail/12947 2025/09/08 07:00

おすすめ

記事アクセスランキング

記事アクセスランキング

イベント

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

記事アクセスランキング

記事アクセスランキング