課題はインターネットで情報を集めた「その後」にあった
「これまでの調べ学習では、インターネットでたくさんの情報を集めただけで満足してしまい、内容の精査をせず、中身の濃いまとめを作った『つもり』になっていました」と話すのは、海南市立亀川小学校の教諭である井戸壮太氏だ。
井戸氏は、2022年度から「メディア創造力」をテーマに授業開発と研究を行う「D-project」に参加し、オンラインデータベースを授業に活用するプロジェクトで研究を行ってきた。その中で、デジタル百科事典「ブリタニカ・スクールエディション」を知り、これまでの調べ学習が抱える課題に気づいたという。
「インターネット上の膨大な情報からたくさん情報を集めるものの、それが果たして本当に正しい知識なのか、子どもたちがちゃんと理解しているのかといった点を、きちんと振り返ることができていませんでした」と、井戸氏は述べる。そこで、正しい知識を得られるブリタニカ・スクールエディションを活用し、新たな調べ学習の授業計画に取り組んだ。
まずは1つのテーマについて、インターネットとブリタニカ・スクールエディションでそれぞれ情報を調べるところから、新たな調べ学習はスタートした。
「授業ではまず、インターネットでは正しい情報を調べられるのか、ブリタニカ・スクールエディションであればどのような情報を得られるのかを考えます。そしてそれぞれができることを比較し、ベン図を使って分析するところから始めました」(井戸氏)
低学年から楽しく活用できる「ブリタニカ・スクールエディション」
ブリタニカ・スクールエディションは、各分野の専門家によって執筆されたデジタル百科事典だ。
小中学校の学びに即した16万以上の項目があり、テキストだけでなく写真や動画、図表やイラストのほか、厳選された外部サイトへのリンクも用意されている。正しく安全な環境下で、児童生徒の調べ学習をサポートする。
クリックだけの簡単操作で情報を閲覧できるほか、「もっと調べる」機能でさらに情報を深掘りすることも可能。「先生用ガイド」には、授業で使える学習指導案なども用意されており、幅広い学習活動で活用できる。Webブラウザ上で動作するので、OS・端末を問わず利用でき、汎用性が高い点もメリットだ。
自分たちの調べ学習のノウハウを、後輩に引き継ぐ
2022年度に6年生を担任していた井戸氏は、さまざまなメディアのメリット・デメリットを調べて分析していく実践として、下級生に向けた調べ学習のデジタルガイドブックを作成することにした。D-projectのメンバーにアドバイスをもらいながら、「インターネット」「本」「ブリタニカ・スクールエディション」の3つのメディアを活用する、6年生の卒業制作「亀川小学校 調べ方ガイドをつくろう」として、授業を設計した。
「授業は全部で8時間です。最初の1時間は、教頭先生から子どもたちにガイドブック作りの提案をしていただきました。本校は和歌山県で唯一の学校情報化優良校に登録されたことから、『ぜひ、自分たちの調べ方を後輩に引き継いでほしい』と子どもたちに依頼する形をとりました」(井戸氏)
次の5時間で、これまで自分たちが行ってきた調べ学習の経験を踏まえ、それぞれのメディアでどのように調べるとよいかを分析し、後輩に向けてまとめていった。その際、工夫したのがグループ分けだ。教科書・辞書などを含む紙の「本」「インターネット」「ブリタニカ・スクールエディション」の3グループに分け、さらに担当する学年ごとに「低学年」「中学年」「高学年」と、9つのグループを作成した。
まずは調べ方ごとに分けた3グループで、それぞれのメリットとデメリットをデジタル付箋に書き、意見を出し合った。次にそれらの意見をまとめ、今度は学年ごとのグループで、それぞれの学年に向いた方法を話し合っていった。
「9つのグループに分かれて分析し、最終的に1つのガイドブックを作っていく形を採用しました。ジグソー法に似た方法ですが、このグループ分けによって非常に深い分析をすることができました」と、井戸氏は振り返る。
各メディアの特性を俯瞰的にとらえることが重要
付箋を活用して意見を出す方法は、井戸氏のこれまでの授業でも行っていた。そのため児童は慣れており、活発に意見が出たという。授業の様子について、井戸氏は「例えば『本』のグループは、ほかのグループよりメリット・デメリットを出すことが難しいだろうと思いましたが、私が考えている以上に、子どもたちはたくさんの意見を出してくれました」と語る。
「子どもたちには、私が課題として感じていた『とりあえずインターネットで調べてしまう』のではなく、『なぜインターネットを使うのか』ということを常に考えながら、調べ学習をしてほしいと考えています。複数のメディアを用意して、各メディアの特性を俯瞰的にとらえることは、私の中で最も重要なポイントでした」(井戸氏)
なお、児童から出た意見から有用なものを選び、ルーブリックにしていく部分については、井戸氏が声がけし、サポートを行った。
こうして丁寧に分析を行った上で各学年の担当ごとにページを作成し、最終的に1冊のデジタルガイドブック「亀川小学校 調べ方ガイド」が完成した。子どもらしいアイデアや工夫にあふれ、動画を入れたり、4コマ漫画風になっていたりと、下級生にわかりやすく伝えたいという子どもたちの思いが詰まっている。
「ガイドブック作りでは、特に低学年グループが『どこまでできるのか』という線引きに苦労していました。この部分は私自身一番悩み、テコ入れした活動です。他者のレベルを想定するというのは、難易度が高い学習だったと思います」と、井戸氏は振り返る。
低学年向けのグループがおすすめしているのが、ブリタニカ・スクールエディションの活用だ。子どもたちからは「クリックだけで操作できるから、タイピングができない1年生にもいい」「教科書のように使える」「インターネットに載っていることは難しいけれど、ブリタニカはふりがなもふってあって、わかりやすい」といった意見が挙がった。
「学年が下がるほどブリタニカ・スクールエディションが有効だという意見が多かったですね。まずはインターネットで調べて、最終的にブリタニカで確かな情報かどうかを確かめる、という結論になりました」
「調べ方を自分で選択する」という意識付けができた
今回の活動で井戸氏が卒業制作に取り組んだのは、6年生ゆえの難しさも背景にあった。「6年生を担任するのは初めてでしたが、中学受験があったり、卒業を控えて学びのスイッチがオフになっていたりと、学級経営の面で難しさも感じていました。今回、下級生を対象にしたことで相手意識を持ち、子どもたちのモチベーションも高まりました。何より、後輩のためにガイドを作り上げるというゴールを迎えて卒業することができました」と、井戸氏は手ごたえを語る。
また、調べ方に対する子どもたちの意識も変わった。「今回の実践を通して、インターネットに対してもうひとつの調べ方、すなわちブリタニカ・スクールエディションのように正確な情報が載っているコンテンツがあることを知り、調べ方を自分たちで選択する意識付けができました」と振り返る。
また、これまでは紙かインターネットかの2択しかなかったが、ブリタニカ・スクールエディションが加わり3択になったことで、子どもたちの意見の幅が広がった点も大きな効果だという。
「ブリタニカ・スクールエディションは正確さでは本に似ていますが、デジタルならではの利便性はインターネットに似ています。この存在があったからこそ、インターネットと本のそれぞれのメリット・デメリットが際立ったと思います」(井戸氏)
「ブリタニカ・スクールエディション」で調べ学習の質を高める
井戸氏は本年度の担任である4年生でも、ブリタニカ・スクールエディションを活用した授業を計画している。
「総合的な学習の時間で『和歌山県の魅力を発信しよう』という授業を予定しています。まずは、ブリタニカ・スクールエディションを使い和歌山県の基本的なデータを調べた後、インターネットで名所やお店などの情報を参照します。ブリタニカに載っていないことはインターネットで検索しつつ、ブリタニカで正確な情報を調べるといった、質を高めた調べ学習を今後はしていきたいと思います」(井戸氏)
井戸氏はさらに「今回の取り組みは、ほかにも気づきがありました」と述べ、「その後の授業でもグループに分かれ、最後に1つのものを作り上げる方法を取り入れています」と紹介した。
低学年から使うことができ、情報の正確性というインターネットのデメリットを補うデジタル百科事典「ブリタニカ・スクールエディション」。活用することで調べ学習はレベルアップし、「個別最適な学び」や「創造性の発揮」にもつながっていく。1人1台端末によって児童生徒が使えるツールの選択肢も広がった現在、児童生徒に対して、こうした学びや興味関心を広げる環境作りがますます重要になっていくだろう。