韓国のEdTech/eラーニング市場を概観する
海を隔てた日本にいても、韓国が超のつく学歴社会だという噂はよく聞きます。ではその韓国でeラーニングはどういった位置づけにあるのか、見ていきましょう。
韓国のeラーニング市場は、2000年台前半から活発化し始めました。2005年には約1.4兆ウォン規模だったのが、2019年には約3.8兆ウォン規模にまで伸びています。これには、2004年に政府が「eラーニング産業発展法」を制定してデジタル教育産業支援を行ったことが影響しているとみられます(韓国開発研究院の資料より)。
3~59歳の韓国インターネット利用者のうち約6割がeラーニングを利用していますが、10・20代に限ると利用率は約8割にもおよびます。利用者1人あたりのeラーニング関連支出は、年平均30万ウォン(日本円換算で約3万円)程度。利用率・支出額ともに男女差はあまりないようです(韓国教育開発院の資料より)。
韓国は正規教育機関でもeラーニングが導入されています。2019年の時点で約9割が利用しているほどです。小・中学校では対面授業の補助としての使われ方が一般的ですが、高等教育機関では、補助的利用に加えて、既存のオフライン集合授業スタイルからの脱却を目的にしている面もあるようです。ただしメインは、単にオンラインで動画を配信するだけという利用法にとどまっており、VR・AR・AIといった新技術の積極的活用は不十分な状況です。オンラインで講義動画を閲覧することは韓国では「インターネット講義」と呼ばれています。
韓国国内のeラーニング産業は、その教育熱の割には、成長率が高いとは必ずしもいえないようです。韓国eラーニング市場の伸び率は、2011~2015年の5年間で年平均9.2%でしたが、世界のeラーニング市場は同時期に12.5%成長していました(韓国開発研究院の資料より)。
新型コロナ禍が招く韓国EdTech産業の夜明け
ただ2020年は、新型コロナ禍のため韓国でもeラーニング需要が急上昇しました。非対面授業の重要性が浮き彫りになった、ということです。2021年もこの傾向は大きくは変わらないであろうと考えられる以上、eラーニングやEdTechの技術革新および社会的関心、そして利活用の浸透が待ったなしで進むことが予想されます。
その方向性には政府も同調しています。最近発表された「韓国版ニューディール」構想と文在寅(ムン・ジェイン)大統領就任3年演説で、教育などの非対面(Untact)産業を集中的に育成していく方針が強調されました。オーダーメイド式教育コンテンツの提供や、AIベースの遠隔教育支援プラットフォーム開発などを助成するとのことです。
韓国の教育が目指す方向性は、一言でいうと「リアルタイム双方向授業」化です。上述のとおり、以前の韓国では単に教師の講義動画を配信するだけという一方通行オンライン授業が多かったのですが、これを、コンテンツを視聴しながら遠隔で議論し、学習報告書の作成~提出~フィードバックを受けられるようにする、というものです。
こうした新しいスタイルを実現するには、新しいテクノロジーソリューションが必要になります。実際に学校教育に利用された韓国EdTech企業としては、ディープラーニングを活用してオーダーメイド式の学習コンテンツを提供する「WizSchool」、リアルタイム双方向オンライン教育プラットフォームを提供する「CLASSUM」などがあります。
新型コロナ禍は旧来の対面授業を危機に追いやりました。これから韓国がなすべきは、EdTech産業の積極的な育成を図ることもそうですが、新型コロナ終息後も国際競争力を持ち続けられるよう、ポストコロナ時代を見据えてEdTechベンチャー発掘・投資・海外進出奨励を積極的に展開していくことでしょう。