大学DXの次の一手:クラウドPBX「Zoom Phone」導入事例
8月7日、ZVC JAPANは「大学DX最後の砦 ~学内外の音声基盤として、これからの電話の在り方~」と題したオンラインセミナーを開催した。本セミナーは、多くの大学でデジタル化が遅れている電話コミュニケーションをテーマとしており、国内最大規模となる関西学院のZoom Phone全学導入事例が中心に据えられた。
関西学院 情報化推進機構 DX担当 専任主管の藤澤快氏が導入事例を語り、ZVC JAPANの辻本真幸氏が製品概要と活用法を紹介。セミナーの最後には、藤澤氏とZVC JAPANの野澤さゆり氏による対談セッションが設けられ、導入上の懸念解消や、参加者からの質問に答えた。
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阪神・淡路大震災とコロナ禍の経験が後押ししたDX
関西学院は、兵庫県西宮市に本部を置く、幼稚園から大学院、インターナショナルスクールまでを擁する総合学園である。7つの拠点に約2000回線の固定電話を保有し、それぞれの拠点にPBX(構内交換機)を配備しており、本部の西宮上ケ原キャンパスでは約10年に一度の更新に1億円以上をかけていたという。
電話機は「受ける・かける」機能しかないものが大半で、1人1台の卓上電話機が配備されている状況であった。また、グループ通話では親子電話のような状況が続いており、「通話中にほかの回線を使おうとすると会話が聞こえるといった不便さも日常的に発生していた」と、藤澤氏は説明する。

このような電話システムの課題は長年にわたって認識されており、2008年には当時の理事長であった森下洋一氏の主導で刷新の検討がなされたことがある。しかし、高額なPBXの更新時期が分散しており、ちょうど1億円規模のPBXを入れ替えたばかりの拠点があったため、その時点ではいったん保留となった。
当時の問題点としては、電話機能の貧弱さ、ナンバーディスプレイ機能の不足により、折り返し電話に手間がかかることなどが挙げられていた。また、2008年以降にクラウド電話の導入を検討した際も、「光電話の番号が切り替えできないなどの制約があり、PBXとクラウドPBXを併用しなければならない課題があった」と、藤澤氏は当時の状況を伝えた。さらに、コロナ禍においては在宅勤務時に電話が使えないなどの問題も発生し、場所に縛られた運用が大きな課題として認識されていた。

電話システムの刷新は、利便性の向上だけでなく、事業継続計画(BCP)の観点からも急務であった。30年前に発生した阪神・淡路大震災では、入試対応時の受付窓口が失われ、受験生からの連絡手段が断たれるという事態に陥った。震災発生から電話復旧までには約4日間を要し、別の拠点に臨時電話回線を引いて対応を再開する形であった。「特に2月に入試を控える大学にとって、この間の連絡不通は極めて厳しい状況であった」と藤澤氏は語る。

今後、こうした災害が起きた際も、クラウド電話があれば、別の拠点からスマートフォンやパソコンを通じて既存の電話番号で継続対応が可能となり、リードタイムなしでの復旧が期待される。当時の経験から、大規模災害発生時の迅速な拠点間通話確保の必要性、そして「場所に縛られる運用は脆弱性になり得る」という教訓が強く意識されるようになった。
15年来の課題を解決に導いた、Zoom Phone導入の5つのポイント
15年越しの電話システム刷新という大きな決断。その背景には何があったのか。関西学院をZoom Phone導入へと導いた、5つの重要な決め手を紹介する。
1.双方向性番号ポータビリティの開始
刷新を阻んできた「大きな障壁」を取り払う転換点となったのが、2025年1月からの双方向番号ポータビリティの開始だった。これにより、関西学院が利用する「0798」「06」「03」などの市外局番を持つ固定電話番号をすべて変更することなく、Zoom Phoneに移行できるようになった。これにより、告知コストの最小化や新旧システム併用期間の短縮といったメリットが生まれ、長年の懸案であった番号問題が解消された。
2.大学の「当たり前」を支える、機能性と安定性の両立
Zoom Phoneは、業界最高レベルのSLA(サービス品質保証)や政府のセキュリティ評価制度ISMAPへ登録している。さらに、阪神・淡路大震災の経験からBCPを重視する関西学院では、KDDIの「Cloud Calling for Zoom Phone」を採用。万が一、Zoomのサーバーがすべて不通となった場合でも、KDDIの交換局から別の電話に一括転送できる。藤澤氏は「この仕組みがあることで、『もしもの時でも、電話を受けられる』と学内に説明でき、安心が得られた」と語る。
この盤石な安定性を土台として、無償の自動音声応答(IVR)や無制限の通話録音といった、日々の業務効率を向上させる機能も充実しており、利便性と信頼性の両面から高く評価された。
3.AIと音声コミュニケーションの親和性
電話でのやり取りは、内容が記録に残りにくく、担当者しかわからない「ブラックボックス」になりがちだ。Zoom PhoneのAI機能は、ブラックボックス化を解消するだけでなく、これまで見過ごされがちだった個人の課題にも解決策を示した。その一例が、耳の不自由な職員の電話対応だ。リアルタイム文字起こし機能は、当事者からも「非常に期待している」と歓迎されたという。
また、日本語話者でない関係者との会議ではリアルタイム翻訳が、会議後の議事録作成では自動要約が、職員の負担を大きく軽減する。従来は会議後の議事録作成やタスクの割り振りに1~2時間を要していたが、AI機能によってそれらがなくなることで「時間創出によるコスト削減」が実現する見込みだ。
4.大学の多様なニーズに応える、柔軟な価格設定とサポート
多様な立場の構成員がいる大学において、全職員に同じ機能のライセンスを付与するのは現実的ではない。Zoom Phoneは、内線のみの利用者は無償にするなど、利用ニーズに応じたライセンスの組み合わせが可能で、無駄のないコストで運用できる点が評価された。
さらに、このような柔軟性は、Zoomの製品開発の姿勢にも表れている。藤澤氏は、ユーザーの要望がサービスに反映される余地がある点を挙げ、導入後も製品が進化し続けることへの期待を語る。変化し続ける大学のニーズに合わせてコストを最適化し、機能は進化し続ける。この「導入して終わりではない」という価値こそが、関西学院にとっての決め手となったのである。
5.学生や教職員にとって最適な環境を提供する、マルチベンダー戦略
関西学院は、これまでもSlackやBoxの導入など、特定のベンダーに縛られず、ユーザーの使いやすさを重視したマルチベンダー戦略でDXを進めてきた。大学は一般的な企業と異なり、教職員だけでなく、内部の構成員でありながらお客さまにも近い存在の「学生」の存在がある。そのため、利用できる機能や閲覧できるデータを立場に応じて厳密に管理できることは、ツール選定における絶対条件だった。
藤澤氏が「ツールを導入することが目的ではなく、最終的には教育研究の質を向上させることが目標」と語るように、あくまでユーザーである学生と教職員を中心に据えたシステム設計が、最適なツール選択へとつながった。

こうして、2008年の検討から15年が経過し、PBX更新時期の調整、コロナ禍による在宅勤務の重要性の認識、据え置き型から軽量ノートPCへの移行など、すべての条件が2023年に整ったことで、クラウド型IP電話への移行が決定されたのである。
職員の意識自体を変えて、DXを成功に導く
Zoom Phoneはすでに導入済みのZoomアプリ上で使うことができ、新たなアプリのインストール等が不要かつ教職員が操作に慣れている点も導入の決め手となった。しかし、一部の教職員からは「今までの電話の仕組みを変えたくない」といった声も上がっていたという。こうした声に対し、情報化推進機構では無理に新しい使い方を押し付けるのではなく、従来とほぼ同じ使い方ができることをアピールし、より多くの職員が安心できる状況で移行を進められるようにした。
また関西学院のDXでは、一部の部署で成功事例を作り、その好事例を学内で横展開することで、他部署の「私たちもやってみたい」という自発的な興味を引き出すことをねらっている。Zoom Phoneの導入においても、AI機能の活用事例などを広げていく予定だ。これは、藤澤氏が「無理強いするのではなく、まずは興味を持ってもらい、楽しみながら仕事に取り組むことで、DXが定着しやすくなる」と語るように、職員自身のマインドセット変革を促すためだ。
セミナーの最後には、藤澤氏とZVC JAPANの野澤さゆり氏との対談が行われ、導入における予算化のコツも語られた。従来の電話の保守費用をZoomのライセンス費用に付け替える際の交渉など、動画でリアルな物語が語られている。
縦割り組織を越え「全体益」を追求するDX
関西学院が最終的に目指すDXは、縦割りであった組織とシステムを横断的に連携させ、一貫した総合学園として、入学から卒業までの「一連の管理」を可能にすることだと、藤澤氏は述べる。具体的には、児童・生徒・学生一人ひとりの「マスターデータ」を構築し、すべてのシステムで共有・活用することにより、教育研究の質の向上を図ることを最終目標としている。
この一連の取り組みは、藤澤氏が語る「業務自体をトランスフォーメーションさせ、より全体益を考えて進めていく」という、単なるツール導入にとどまらない、より大きな目標に向けた挑戦だ。
例えば、Zoom Phoneで電話を受けた際、通話内容の要約を他部署と連携し、対応すべきタスクを明確化して割り振ることで、より迅速な対応を実現しつつ全体益を考慮した業務プロセスを確立させていく。さらに自動音声応答機能も活用し、問い合わせ対応を一元的に管理することで、情報化推進機構が業務見直しの起点となり、「真のDX」を進めようとしている。

これらの取り組みを通じて、関西学院はクラウドへの完全移行を実現し、よりレジリエントで効率的な、そして藤澤氏が理想と語る「意識せずとも、気がつけば便利になっている」ような大学運営を目指す。
Zoom Phoneは場所を選ばない新しい電話
では、関西学院のDXを支えるZoom Phoneは、具体的にどのようなサービスなのだろうか。セミナーではZVC JAPANの辻本真幸氏が、Zoom Phoneが持つポテンシャルと、電話DXの全体像を解説した。
まず辻本氏は、Zoomが「Zoom Video Communications」から「Zoom Communications」へと社名を変更し、ビデオ会議だけでなく、より広範なコミュニケーション全体をカバーする「Zoom Workplace」へと進化していることも言及した。
Zoom Workplaceは、チャット、音声通話、ビデオ会議、AIコンパニオン、メール&カレンダー、スケジューラー、ホワイトボード、ノート、Docs、Clipsなど、多様な機能を単一のプラットフォームに統合している。これにより、ユーザーはチャットから音声通話、そしてビデオ会議へと、状況に応じてシームレスにコミュニケーション手段を切り替えることができる。

Zoom Phoneは、この統合されたコミュニケーションサービスの中核をなすクラウドPBXだ。従来の電話システムが、学内に物理的な交換機(PBX)を設置し、電話線を通じて公衆電話網に接続していたのに対し、クラウドPBXは交換機を学内に置かず、Zoomがクラウド上で提供するPBXをインターネットを通じて共同利用する仕組みだ。これにより、PCやスマートフォンにインストールされたZoomアプリに従来と同じ固定電話番号を割り当てることができ、場所を問わず外線発着信が可能となる。固定電話型のアプライアンス機器(据え置き型の専用端末)への着信も可能で、利用者のニーズに応じてデバイスを選択できる。

Zoom Phoneは2019年のグローバルリリース以来、急速に導入実績を伸ばし、全世界で700万以上、日本国内でも20万以上の導入数を達成した。この注目度の高さの背景には「AIと音声コミュニケーションの相性のよさがある」と辻本氏は述べる。
Zoom Phoneの生成AI「AI Companion」は、通話中にリアルタイムで会話の文字起こしを行い、要約を作成する。これにより、長い通話も途中で要点を見失うことなく、終了後には会話の要約や次のステップが自動で生成され、アフターコールワークの効率化に貢献。さらにボイスメールの文字起こし機能も搭載されており、留守番電話のメッセージを聞かずとも内容を把握できる。このようなAIによるサポートが、電話音声コミュニケーションの「見える化」の推進に大きく寄与している。
BCP強化、AI活用、そして職員のマインド変革まで。関西学院大学の事例は、電話DXが持つ大きな可能性を示した。
セミナーの最後には、ZVC JAPANからZoom PhoneのPOC(概念実証)用ライセンスの無償トライアルが案内された。同様の課題を抱える大学は、この機会に、次世代の音声基盤を体験してみる価値があるだろう。
【アーカイブ公開中!】大学DX最後の砦 ~学内外の音声基盤として、これからの電話の在り方~
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