特別支援学級の担当になった初任の先生が困るポイント
「ちょっと待って、アキラくん(仮名)!」
廊下に響く先生の声。何が起きたのかと思って見に行くと、ADHDの特性を持つと思われる子どもが教室を飛び出すのを、若い先生が必死で止めようとしていました。先生は戸惑いながらも懸命に対応しており、子どもはイライラしているようでした。
こうした場面に遭遇することは、特別支援学級を担当する先生にとって珍しいものではありません。特に新任の先生や、数年間交流学級を担当していた先生が、突然特別支援学級を任されることは少なくないのです。
このような状況が生まれる背景には、2022年に文部科学省が「新しく採用された教員は全員、おおむね10年目までに特別支援学校や通級指導教室などで担任を経験することが望ましい」とする方針[※]を示したことがあります。また、特別支援教育を受ける子どもたちの数が増え、特別な支援を必要とする子どもたちのニーズがどんどん多様化していることも、こうした状況を生み出しています。
その一方で、現場では教員の育成が追いついていないという現実もあります。教員が不足しているため新任の先生が特別支援学級を担当することが増え、必要な「知識や技術」を身につけるための時間や研修が不足しています。こうした背景から、若い先生方が個々の努力に頼らざるを得ない事態に追い込まれている状況が続いているのです。
また、1年以内に退職してしまう先生が増えてきているとも言われています。東京都教育委員会の調査によれば、昨年度採用された新任教諭のうち、1年以内に退職した教諭が169人、全体の4.9%に上るという結果が出ています。これは過去10年間で最多の数字です。特に、特別支援学級を担当する若い先生方にとって、その負担は非常に大きく、離職の一因となっていることがうかがえます。
では、特別支援教育に携わる若い先生方が直面する課題とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。主に次の3つが考えられます。
1つ目に個別対応の難しさがあります。特別支援学級では、一人ひとり異なる支援が必要です。例えば、知的障害、自閉症スペクトラム障害、ADHDなど、さまざまな障害特性に応じた指導が求められます。
個別対応には、まず子どもの障害特性を理解することが不可欠ですが、これは一朝一夕で身につくものではありません。特別支援教育の専門性を持たない若い先生にとって、この個別対応の難しさは、大きなストレスとなりがちです。
2つ目は、コミュニケーションの難しさです。特別支援学級では、保護者との連携が重要です。若い先生は保護者対応や連携に不慣れなことが多く、誤解やトラブルが生じることもあります。
特に、保護者からの要望や意見に適切に対応するためには、十分な知識と高いコミュニケーションスキルが求められます。場合によっては、保護者との関係が悪化し、それが子どもへの支援にも影響を及ぼす可能性があるため、先生方には慎重な対応が求められます。
3つ目が、先生自身の精神的な負担です。特別支援学級を担当する先生は、児童生徒の特別なニーズに応じるため、精神的な負担が大きくなることがあります。行動問題や感情のコントロールに関わることが多く、特に若い先生は対処しきれないことがあります。これが蓄積すると先生自身のストレスが増し、疲弊することもあります。
特別支援学級を担当する先生が困ることが多い子どもの行動には、以下が挙げられます。
- 授業中に着席できない、また、座っていても落ち着かない
- 授業中に挙手するが、話が授業の流れとずれる
- 授業中に指示に従わず、勝手に行動する
- トラブルを起こしても、また同じことを繰り返す
- 友だちが嫌がることを言う
- 学習内容がなかなか定着しない
- 蹴る、叩くなどの粗暴な行動が見られる
このような行動に日々対処する中で、先生方は大きな精神的負担を感じることがあります。特に、子どもたちの行動に改善が見られない場合、先生は「自分の指導が本当に役立っているのか」という不安を感じ、自信を失うこともあります。さらに、この不安感は先生自身のモチベーションの低下につながる場合もあります。
[※]出典:文部科学省「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議 報告」P.13