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GIGAスクール構想で実現する「学習者主体」のICT活用

「やらかし」は絶好の指導のチャンス! iPad1人1台を実践する中学校は、いかに生徒の力を引き出しているのか

GIGAスクール構想で実現する「学習者主体」のICT活用 第3回

 前回の記事では、Chromebookを採用した学校での教育実践を紹介しました。今回の記事では同じく大学の附属中学校として、1人1台のiPadを活用している上越教育大学附属中学校の取り組みを紹介します。同校では2016年より本格的に1人1台のiPad活用を進めてきました。2019年には、Appleが優れた教育実践校に対して認定を行う「Apple Distinguished School」にも認定され、大きな話題になりました。同校では「民主社会の発展に寄与する人間性豊かなたくましい生徒を育成する」というビジョンを掲げ、大学附属校としてさまざまな研究実践をしており、ここでも「学習者中心」の思想が強く見られました。その様子を、2017年に同校に赴任し、この学校の大きな変化の中で指導をしてきた大崎貢先生に聞きました。

上越教育大学附属中学校 大崎貢先生
上越教育大学附属中学校 大崎貢先生

校務はWindows、生徒はiPad

 同校におけるICT活用の歴史は長く、1988年に「学校教育におけるコンピューター活用についての研究」という取り組みを3カ年にわたって行ったことを皮切りに、2011年~2016年は総務省「フューチャースクール推進事業」や文部科学省「学びのイノベーション事業」などを通じて、Windows端末を学校から貸与する形で1人1台の実践を積み重ねてきました。しかし2016年、これらの事業が終了するタイミングで「この後をどうするか」という議論が巻き起こり、結果的に2016年度より各家庭が端末を購入して学校に持ち込むBYOD方式でのiPad1人1台体制に移行することとなりました。

 当時について大崎先生はこう語ります。

 「このOSが切り替わることについては先生たちも非常に苦労しました。教職員向けには当時、校務用としてWindowsのPCが与えられていましたが、iPadについては触ったことがない先生も多かったのです。ただ、生徒による1人1台の端末利用が始まる前に、教職員に先にiPadが配備され、その使い方を検証する機会が得られました」(大崎先生)

 ちなみに、現在でも同校では校務用PCはWindowsを使っているので、先生たちは結果的に授業用にはiPadやMacBook、校務にはWindowsという、OS二刀流での業務を行っています。しかし2016年、教職員に対してiPadが先行配備されたとは言え、その翌年度には1人1台のiPadを持った生徒から活用方法や使い方について学ぶ機会も多々あったと言います。この辺りは、第1回および第2回にも記載した「生徒のほうが詳しいので、先生が時には生徒から教わる」といった話とリンクする部分です。

 一方で、良いことばかりでもありません。当時の上越教育大学附属中学校では問題も起きていたそうです。

 「実は当時、情報モラルの観点から見ると、肖像権や著作権侵害、SNSのトラブルなど、ICTが関連するさまざまな課題も、生徒には起きていました」(大崎先生)

トラブルを後から知って後手で対応するよりも「やらかした」ときに先手で指導するほうが効果的

 ICTの導入には、大なり小なり、トラブルがついて回ります。特に新入生はつい最近まで小学生であった子どもたちです。入学と同時に家庭から学習用としてiPadを受け取れば、どうしてもテンションが上がってしまうため、さまざまなトラブルは「必ず起きるもの」と大崎先生は断言します。

 上越教育大学附属中学校では、iPadの利用方法のガイドラインを入学時に配付しており、そのガイドラインや、生徒と保護者が使い方や指導のあり方について、ともに同意すべき内容を示した文書は、いずれも公開されています。

 これを紐解いてみると、国公立の中学校としては同校のICTの利用制限やルールはかなり「最低限度」であり、生徒の自由度が幅広く認められていることがわかります。前述のトラブルが起きることがある中で、このようなガイドラインで大丈夫なのでしょうか?

 大崎先生は「トラブルが起きていることになかなか気づかずにいると、対応が後手に回り、解決まで非常に多くの労力を費やすことになりかねません。生徒の『やらかし』が早い段階で発覚することは、むしろ絶好の指導のチャンスなのです」と言います。

 つまり、ある程度自由度が高い状態で活用していれば、中学校入学後の段階で何かしらの問題や課題(あるいは活用にあたってのジレンマ)が早い段階で話題になります。そのとき、できるだけ早めに指導を入れるほうが、生徒に対する指導としてはより効果的で、指導の内容も先生が一方的にルールを押し付けるのではなく、生徒たちが納得をする形で定めるほうが、無用な制限やルールが増えずに、生徒たちの端末活用を阻害しないことにつながるのだそうです。

 これは筆者の経験談でもあるのですが、生徒たちは明確に「禁止」されている事項に対して何らかの抜け穴を見つけた場合、その「抜け穴を知っていること」を隠す傾向が強まります。すると、先生たちがそのことを知ったときにはすでに問題点が大きくなっていて、対応が後手に回り、膨大な時間を割いて収める、ということになりかねません。

 しかし、ある程度自由度が認められていると、生徒には「この使い方っていいんだっけ……?」という疑問が生まれ、その利用方法が議論になる(=先生たちも気づきやすくなる)のです。ただ、そのときも先生が「それはだめ」と答えを言うわけではなく、学校が指し示す最低限のルールや方針に照らし合わせた上で「じゃあどうするべきか考えてみて」と指導をすることで、結果的に生徒たちが受け入れやすい方法で端末の使い方が定まっていきます。

次のページ
iPadを「文房具」として日々使える環境により「研究」と「ICT活用」が同居可能に

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この記事の著者

野本 竜哉(一般社団法人iOSコンソーシアム 代表理事)(ノモト タツヤ)

 静岡県磐田市出身。大学・大学院で情報工学の立場から教育のICT化について研究し、2009年より通信事業者でエンジニアとして国際通信回線の保守運用、私立学校へのICT導入SE等に従事。2014年には一般社団法人iOSコンソーシアム「文教ワーキンググループ」リーダーを兼務し、2019年には同社団法人の...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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