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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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イベントレポート(プログラミング教育)

プログラミングを教える大人に伝えたいこと 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【後編】

 フィンランドのヘルシンキ出身のプログラマーで、作家・イラストレーターとしても活動しているリンダ・リウカスさん。国内ではプログラミングやコンピューターについて学べる絵本「ルビィのぼうけん」シリーズ(翔泳社)の作者としても知られているリンダさんが、2018年12月27日に聖心女子大学敎育学科の学生に向けて講演を行った。今回は、未来のプログラミング教育者に向けてメッセージを語ってもらった講演の後編をお届けする。

前編「プログラミングは自分を発信するためのツール 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【前編】

中編「大切なのは言葉ではなく行動して学ぶこと 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【中編】

経験という名のドットを繋げて自分だけの星座を作る

 テクノロジーというものを伝えていきたい方に、スティーブ・ジョブズの言葉を紹介したいと思います。彼は、テクノロジーのような難しい領域の事柄を伝えるときには、自分自身に経験や出会いが足りないと、偏った見方で話をしてしまいがちだと言っています。ですから、テクノロジー以外の知識や人との出会いを増やさなければなりません。様々な「点」を増やしていって、そのつながりを参照しながら線を作っていくことが大事なのだと思います。

 よい例が星座です。この夜空にはたくさんの星、つまり点があって、それらはランダムな場所で勝手に光っています。ですが、人間はその点を線でつなげて星座を生み出し、そこに物語を作りました。物語を通して星を見れば心に残ります。これがストーリーテラーの役割です。

 皆さんの人生においても、様々な点があるでしょう。それをどのようにつなげて自分のストーリーにしていくか。最初から線を意識して、目標を定めることもあるかもしれません。私の場合はそうではありませんでした。自分は絵があまり得意ではなかったけれど、発信したいと思って絵を勉強しました。アル・ゴアがものすごく好きで、アル・ゴアのことをもっと発信したいと思ってウェブサイトを作り、そこでプログラミングを学びました。そういう挑戦を繰り返して点を作り、線がつながっていった結果、今自分がここにいるという星座ができていたんです。

 皆さんが作る点も線も皆さん次第だと思います。でも、私はその点の一つがテクノロジーであったらいいなと思っています。

 テクノロジーは生物学のような学問につながりますし、バレエやスポーツにもつながります。自分の表現方法を広げるツールでもあります。ですから、ぜひテクノロジーという点、それは具体的にはプログラミングやアルゴリズムなのかもしれませんが、そういう点を見出してほしいです。

大人にもおすすめしたい『ルビィのぼうけん』

 私からの話はこのくらいにして、質問があればお答えしたいと思います。

 お試しとして、最初に自分自身に質問してみますね。私が今テクノロジーに興味を持ち、プログラミングに興味を持ってみたとします。そこで、「まず何から始めればいいのでしょうか」と質問したことにしましょう。

 私はこう答えます。ぜひ『ルビィのぼうけん』を読んでください。この本はパソコンではなくストーリーとイラストでプログラミングの仕組みを学べるようになっています。そして、紙を切り貼りしてプログラミングの仕組みを学びます。そもそもどういうものなのか、という観点でプログラミングに触れられるんです。

 もう一つおすすめしたいのは、Code.orgというウェブサイトです。子ども向けのプログラミング教材がたくさん紹介されています。子どもたちが親しみやすいように、『スター・ウォーズ』のキャラクターや『アナと雪の女王』のキャラクターなどが使われています。初心者の大人でも楽しめるコンテンツなので、ちょっと興味を持ったときにプログラミングを知っていくきっかけになるんじゃないでしょうか。

 このほかにも、オンラインで有名な大学が公開しているプログラミング入門やコンピューター入門の講座を受けられます。また、「プロコンピュータープログラム 1on1」みたいな感じで検索すると、「そもそもプログラミングって何だろう」という視点で説明してくれる動画がたくさん出てきます。

 今日この場にいる皆さんの中には、敎育現場に携わろうとしている人がたくさんいると思います。なので、放課後や空き時間に数人で集まって、どんなカリキュラムを作れば小学生にもわかりやすく伝えられるだろうとディスカッションをしてみてはどうでしょうか。小学校では2020年にプログラミング敎育が必修化されますが、今すぐアクションを起こして一歩踏み出すだけで、プログラミング敎育の先駆け、先頭を走る人になれると思います。

 きっと一学期を過ぎたら、先生がびっくりするほどのアイデアが皆さんの中から飛び出してきていると思います。

リンダ・リウカスさん

子どもがプログラミングを学ぶために必要な3つのスキル

 では、皆さんからの質問に答えていきましょう。

質問者「子どもはいろんな力を持っていると思うんですが、スマホなどが身近にある中で子どもたちはどんな力を発揮していくとお考えですか?」

 今私が考えているのは3つです。1つ目はクリエイティビティ、つまり何かを作る能力。2つ目はキュリオシティ、疑問に思ったり興味関心を持ったりする能力。そして3つ目はテクノロジーに対する恐怖心がないという能力です。

 私たちは既にプログラムを使っていますが、子どもたちがこれからどんなふうにプログラムを使うかはわかりませんし、子どもたちが大人になったときどういう技術が社会で使われているかなんて、今の私たちには想像できません。だからこそ、これら3つの能力がすごく大事なんじゃないかなと思います。

『はじめてのおつかい』(日本テレビ)というテレビ番組を見たときに、周りの大人たちが子どもに対して「あれをやれ」「これをやれ」とは言わず、「はい、これが課題です。あとは周りの人たちを使って自分で問題を解決してください」と投げかけていました。これにはとても驚きました。ニューヨークの子どもたちが同じような課題を与えられて街に出ていったとしても、どうすればいいかはきっとわからないでしょう。

 日本の先生たちは私に「日本はプログラミング教育が遅れているんですか?」とよく質問されます。そんなとき、私は「全然遅れていません。世界の国々と同じように、プログラミングをどう教えればいいのかと手探りで進んでいます。その中で、日本にはコンピューターサイエンスとコラボレーションしたカルチャーがたくさんあります。そういうものをお手本にすればいいんですよ」とお答えしています。

 では、もう1つくらい質問をどうぞ。

質問者「私が気になっていることはリンダさんのプライベートな側面です。世界中のいろんな場所で活躍されていますが、結婚などご自身のライフプランをどうのように考えていらっしゃるのでしょうか。ぜひ参考にしたいと思っています」

 私がコンピューターに興味を持ち出したあと、IT企業に転職する選択肢がありました。でも、やっぱり子どもたちに魅力を伝えたいと考え、絵本作家になる道を選びました。なので、私が「IT企業で働くのはいいことだよ」とは言えません。でも、IT企業で働くのはおすすめです。能力を磨けますし、能力主義で評価する文化がありますから。

 多くのIT企業は働き方に対しても柔軟です。能力や技術を重視しているので、お母さんが家事や育児をしながら家で仕事をするのも当たり前で、日本にもそういう企業があるのではないでしょうか。あと、世界中の人たちが集まってどんなコラボレーションをしてプロダクトを作っていくかという活動をしている企業も多いので、多様な人たちに出会えるいい職場ではないでしょうか。

 ただ、II企業に転職すればいいというわけではありません。どんな状況も自分自身が発信していかない限り変わらないんです。たとえば、「女性は介護をすべきだ」「女性は家事をすべきだ」という考え方があるとしても、女性が自分から変わりたい、変わるべきだと思うと発信しないと、社会も企業も変わっていかないと思います。

 今、そういった境界線をなくしていこう、ハードルを超えていこうという動きが盛んです。ですから、皆さん自身も仲間になって活動していくべきです。

 日本でもそうした風潮が変わってきていると感じた経験があります。ある男の子から本にサインを求められて、サインを書くときに「好きなキャラクターを描いてあげる。どんなキャラクターが好き?」と尋ねてみたんですね。本の中にはライオンや蛇など、男の子が好きそうな動物がたくさんいます。でも、彼は「僕のヒーローはルビィだからルビィを描いてほしい」と言ってくれたんです。大人の先入観や周りの目を気にせず、自分の好きなキャラクターを選んでくれたことに嬉しくなると同時に、子どもたちの物事の捉え方がすごく変わってきていると感じました。

 今回の講演は先生を目指している人たちに対してのメッセージをテーマにしました。自分の目の前の子どもの能力を伸ばしてあげる、もっと輝かせてあげるという仕事ができる職業はかけがえのないものです。私の母国であるフィンランドでも多くの人に尊敬してもらえる仕事です。皆さん、いい先生を目指して頑張ってください。

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この記事の著者

翔泳社 書籍編集部(ショウエイシャ ショセキヘンシュウブ)

翔泳社の書籍編集部です。

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OGURA(オグラ)

フリーランスフォトグラファー

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渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

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