データリテラシーは知識やスキルを身につけるのではなく能力開発に近い
データリテラシーはデータを読み、使い、分析し、データに基づいたコミュニケーションが取れるようにする能力です。このスキルを身につけることで、組織に所属する全ての人がデータに関する適切な質問ができ、知識を蓄積して意思決定が行え、その意味を他の人に伝えられるようになります。このデータリテラシーは、どのように身につければいいのでしょうか。統計解析などの勉強をすれば、データリテラシーは身につくのでしょうか。
企業のDXを支援するデータプラットフォームをグローバルで提供するQlikでは、包括的な教育やコンサルティング、サポートサービスにより、多くの人がデータリテラシーを身につけ、組織にデータ主導型の文化を定着させる取り組みを実施しています。これは製品やサービスありきではなく、データリテラシーの高い人を世の中に増やすことが必要だと考えてのことです。
いままさに社会に必要とされる人材育成を目標とし、データリテラシー教育に取り組んでいるのが北海道ハイテクノロジー専門学校です。同校は、時代が求める職業に対応する人材を育てており、30年ほど前にバイオテクノロジー技術者が広く求められた際、その人材育成を目的に設立されました。現在は、各種テクノロジー分野の人材育成に力を入れており、従来のプログラマーやデザイナーに加えドローンの技術者やAI、ロボット技術者の育成にも取り組んでいます。
そしてその中の1つとして、データサイエンティストを育成しています。同校 ITメディア学科長の中田龍太氏は、「学生が資格を取得しいい企業に就職することも大事ですが、それだけではなく、新しいことを学び変化に対応できる人に育ってほしいのです」と語ります。
同校にはITメディア学科医療データ専攻(旧医療事務学科)があり、ここでは診療報酬に関する医療事務の人材を育てています。診療報酬の業務は病院経営に重要ですが、今後は多くの部分がAIなどのITシステムに置き換えられると考えられます。「そうなれば医療事務人材を育てても、先行きが危うい。ならば医療事務を行う人の新たな価値として、データを扱えるようにすればいいのではと考えました」と中田氏。病院経営において、経営効率化は大きな課題です。効率化するにはデータ活用が必要であり、医療事務人材がデータを扱えれば役に立つと考えたのが、データリテラシー教育を始めるきっかけだったのです。
同校では、2020年2月からデータリテラシー教育について検討を開始、同年4月から具体的に動き出し、夏には特別授業を実施します。2021年4月から開始した授業は、週に1回3時間、基本はオンラインで実施し、月に1回程は対面授業も行っています。
この講義はITメディア学科医療データ専攻1年生の前期授業に組み込まれており、ツールの使い方を学ぶだけではなく、実際に学生がデータ分析を実践する内容となっています。とは言え「PCに触るのも初めてという新入生もいるため、画面遷移の操作があるとそこでつまづくようなこともあり、最初はかなり苦労する学生もいます」と中田氏。PCに慣れていない学生にはマンツーマンで指導し、問題を乗り越えているとのことです。
「授業を進めていくうちに学生は徐々に操作に慣れ、3カ月後には一般に公開されている新型コロナウイルスのデータを取得し分析する演習を行っています。学生は、ほんの数カ月で思った以上にしっかりデータ分析ができるようになっています」(中田氏)
通常、専門学校では職業に必要なスキルを身につけるため、仕事に必要な知識やプログラミング手法などを教えるのが中心です。対してデータリテラシー教育は「スキル習得よりも能力開発に近いものがあります」と、本講義のカリキュラム構築、テキストの作成を担当し、50社以上の企業のデータ活用を支援してきたデータサイエンティストの横尾聡氏は語ります。
「プログラミングであれば正解がありますが、データ分析にはベストな回答が複数あるかもしれません。正解はただ1つではないのです。つまり答えが何かを教えるのではなく、正解とは何かを考え、それに向かうための考え方を身につけるようにします。結果としてテキストを考えた自分よりも学生のほうが良い分析結果を出すこともあります」(横尾氏)