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大学のDX事例紹介

リアルタイムに学生の反応を可視化し、授業の質向上を目指す――大阪電通大が産学連携でシステムを開発


 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、オンライン授業など「ICTを活用した学び」が急速に普及している。同時に、旧来の授業のあり方も改めて問われるようになった。リモート・対面を問わず、より良い形の授業を実現するためには、ICTをどのように活用すればいいのか。さまざまな試みが行われる中で、産学連携で授業システム「Lectures(レクチャーズ)」を開発した大阪電気通信大学とスキャネット株式会社。開発の経緯と活用状況を、同大学の副学長である新川拓也氏を中心とした関係者に伺った。

「授業の質の向上」に向けて学生の声を集める方法を模索

 1961年に開学し情報教育を強みに実践型教育を展開してきた、大阪電気通信大学。1978年にはパソコンを用いた対話型情報処理教育システムを開発するなど、いち早く最先端の教育手法を取り入れてきた。また、先進技術を使った教育研究でも知られ、その成果を還元すべく2018年には「ICT社会教育センター」を設立。寝屋川市や守口市、四條畷市、大阪市などの自治体や各教育委員会と連携協定を結び、小中学校向けプログラミング教育のサポートなども行っている。

 また、教務・校務でのICT活用も推進しており、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を2005年から導入するなど、さまざまな場面でICTを活用してきた。さらに、同大学 情報学科の大西克彦教授は、スキャネットが提供する「デジらく採点2(当初は「デジらく採点」)」を2016年から導入し、テストの採点や点数の集計などの採点業務にかかる時間を短縮。授業運営の効率化を図ってきた。

大阪電気通信大学 情報学科 教授 大西克彦氏
大阪電気通信大学 情報学科 教授 大西克彦氏

 「100人以上の受講生に対して、授業期間中少なくとも2回は記述式のテストを実施しており、その採点には3日ほどかかっていました。効率化のため、マークシート形式でのテストも考えたのですが、やはり学生の理解度を正確に把握するためには記述式のほうが望ましい。そこで従来の答案用紙がそのまま使える『デジらく採点2』を導入したところ、採点業務の効率化により1日足らずで終わるようになりました。採点にかかっていた時間を『授業の質』を高めるという本来の業務のために使えるようになったことが最大のメリットと言えるでしょう」(大西氏)

 大西氏が語るように、授業の質の向上は近年の大学運営において重要なテーマだ。少子化に伴い、大学間の競争が激化する中で欠かすことができないものであり、多くの学校では授業に関するアンケートを実施し、学生からの声を聞くことが一般化している。しかし、大抵の場合は授業を終えた期末に1回のみ実施することが多く、要望などが明らかになっても、次の期間に活かすしかなかった。こうした状況に対して課題感を持つ教員は同大学でも多く、副学長である新川氏のもとにも、方策を求める声が届いていたという。

大阪電気通信大学 副学長 新川拓也氏
大阪電気通信大学 副学長 新川拓也氏

 「学生が要望を寄せてくれても、授業がすべて終わったあとでは当の本人に還元できません。私自身も教壇に立つ身なので、とても残念なことだと感じていました。とは言え、毎回授業後にアンケートを実施するのも学生と教員、双方に負担がかかるため、あまり良い方法ではない。そもそも最も理想的なのは、その場で学生から返ってくる反応を見ながら授業を進めることです。『その説明はわかりやすい』『もう少し丁寧に教えてほしい』といった声から、授業への興味関心や理解度がわかる。それをICTで実現できないかと考えたのです」(新川氏)

「授業は会話」のコンセプトのもと、学生の状況をリアルタイムに把握できる「Lectures」が誕生

 もともと同大学には、演習教室で課題をどのように解いているのかを教員が把握しながら授業を進行する「電通大方式」の文化があった。その延長線上で、ICTを活用してより良い授業を模索するのは必然的だったと言える。2010年ごろには「ICTを使って学生のステータスを把握し、対応できる仕組みをつくる」という着想がすでに存在していた。

 「そもそも対面授業で学生の反応が見えたとしても、参加人数が多ければ一部の声しか届かないのが実情です。声を上げない学生の声をいかに拾い上げるかといった課題はずっとありました」(新川氏)

 構想を加速させるきっかけの1つとなったのが「スマートフォン」の存在だ。もはやスマートフォンは1人1台が当たり前。さらに、薄型のノートパソコンやタブレットなども普及し、所持デバイスの有無がネックになることはなくなった。さらに無線LANや高速化された移動通信システムの整備により、場所も限定されることがなくなった。

 「2017年ごろでしょうか、授業アンケートに用いるマークシートの供給などでご協力いただいていたスキャネットさんと、構想について話し合うようになりました。まずは私と複数の事務職員で授業支援システムのプロトタイプを作成し、そのデモンストレーションをお見せしたんです。当時はパソコン向けに作成しましたが、すぐに『タブレットやスマートフォン版で』というお話になり、それが『Lectures』の原型になりました」(新川氏)

 実は、新川氏も事務職員も、そして当時スキャネットの代表取締役社長(現取締役会長)であった小池隆彦氏も、偶然ながら同大学の卒業生だったという。母校の教育環境に関心を寄せる人々が集まり「究極の授業の形とは?」という問いから本格的な開発がスタートした。

 「ディスカッションを進める中で『授業は会話』のイメージが共有され、『Lectures』の開発コンセプトが形になっていきました。この取材もそうですが、会話では相手が理解しているかどうかを表情や発言の内容から推測し、話し方を変えていますよね。しかし、10人ほどであればそれができても、100人、1000人になると難しい。テクノロジーで雰囲気や理解度、空気感まで捉えることはできないかと考えたのです」(新川氏)

 「Lectures」のユニークな点は、授業における学生の反応がその場で可視化されることだ。もちろんLINEやTwitterなどのコミュニケーションツールを使えば、リアルタイムに学生の反応を可視化できる。しかし、授業中にツールでやり取りしながら、その場で授業の進め方を判断することは至難の業と言えるだろう。

 そこで「Lectures」では、授業の評価を「理解」と「興味関心」2軸で捉える考え方を採用した。学生が画面上で4象限の1つをタップして選択すると、そこに点が表示され、選択されたところが多い象限ほど点が集まって色が濃くなり、現在の評価として教員側に伝わるという仕組みだ。評価はグラフ化され、「よくわからないけど、興味深い、面白い」「面白くないけれど、よく理解できた」のように可視化される。

スマホから見た学生側の「Lectures」画面
スマホから見た学生側の「Lectures」画面
わかりやすさ×面白さをグラフ化
わかりやすさ×面白さをグラフ化

 「ポイントはその評価が変化していくところです。例えば、途中までは興味深く聞いて理解もしているけれど、ある公式を示した途端、急にわからない学生が多くなったとします。すると、その公式をもう少し丁寧に説明するなどの判断がすぐにできるでしょう。わかりやすくたとえ話をしたほうがいいのか、きっちりと理論的に説明したほうがいいのか、判断するための指標として使うこともできます」(新川氏)

 開発では、特にUIにこだわったという。教員は板書しながら学生の様子を見つつ、さらに「Lectures」の画面も確認する必要がある。ぱっと見て感覚的に理解できるよう、学生のタップで表示される点の大きさにまでこだわった。

授業中の教員用「Lectures」画面イメージ
授業中の教員用「Lectures」画面イメージ

 現在、スキャネットの代表取締役社長を務める小池隆善氏は、開発時の苦労を次のように語る。

 「UIは非常に苦労した部分ですが、新川先生をはじめ、実際に授業される方々の意見をダイレクトに聞きながら開発ができたのは、私たちにとっても大変いい経験でした。インターフェイスにこだわる必要性があるという実感を確実に得られました。

 また、リアルタイムに反応が見られることが重要な要件でしたが、想定以上に学生の人数は多く、可用性やセキュリティ面の担保には神経を使いました」(小池氏)

スキャネット株式会社 代表取締役社長 小池隆善氏。現取締役会長であり父の隆彦氏は大阪電気通信大学の卒業生
スキャネット株式会社 代表取締役社長 小池隆善氏。現取締役会長であり父の隆彦氏は大阪電気通信大学の卒業生

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4つの機能を使い分け、より良い授業づくりに活かす

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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