はじめに
2019年1月初旬、このMusic Blocksを活用したプログラミングワークショップが小学校4年生~5年生を対象に開催された。前回、開発者であるMITメディアラボの元所長ウォルター・ベンダー(Walter Bender)氏とギタリストでニューイングランド音楽院ギター科長 デビン・ウリバリ(Devin Ulibarri)氏へのインタビュー記事をお届けした。今回はワークショップの様子をレポートしよう。
盛りだくさんのワークショップ
子どもたちは2チームに分かれ、午前中にMusic Blocksの基本的な使い方とモデル授業を1コマ体験し、午後はさらにモデル授業を2コマ体験するというなかなかのハードスケジュール。今回のレポートでは2つの授業を紹介する。1つ目は加藤学園暁秀初等学校の中原悟教諭と剣持佳季教諭によるモデル授業「きらきら星を演奏しながら描こう!」、2つ目はMusic Blocksを日本に紹介したジャズピアニストで数学者の中島さち子氏による特別授業「MB Workshop!~対称性を用いて作曲に挑戦しよう」だ。
きらきら星の演奏をプログラム化する
加藤学園暁秀初等学校のICT/コンピュータ専科 中原悟教諭と4年生担任 剣持佳季教諭による「きらきら星を演奏しながら描こう!」は、趣味のビオラを取り出した剣持先生にギターを持ったデビン氏も時々加わりながら進められた。パソコン上のプログラミングツールを扱う時間とはいえ、楽器が登場するだけで音楽を扱っていることをダイレクトにイメージしやすい。こうした導入や演出は、特に子どもにとっては重要だろう。
まずは、きらきら星のメロディーを作るところからスタート。Music Blocksでは、音符のブロックを順に並べて、メロディーを作る。音符のブロックには、音の長さや高さなどを指定できる。授業では、音の高さは「ドレミ」で、オクターブは数字で指定した。音の長さは、「1/4」と指定すると4分音符1個分、「1/8」と指定すると8分音符1個分となるので、標準の4分の4拍子設定ならば、1小節のサイズを1として分数で解釈できる。
まずは、きらきら星のメロディーの構成音を始めから順に「ド|ソ|ラ|ソ|ファ|ミ|レ|ド」と1/4(4分音符1個分)の長さずつ並べて基本型ができた。実際のメロディーは「ドド|ソソ|ララ|ソ|ファファ|ミミ|レレ|ド」となるわけだが、そこは次のステップ。「ドド」のように、半分の長さで2回音が発する箇所は、音符ブロックの長さの設定を1/4の半分、つまり1/8(8分音符1個分)にして2つ並べるという考え方を経て、子どもたちは耳慣れたメロディーをMusic Blocks上でプログラムすることができた。
楽譜と何が違うのか?
楽譜に慣れている人の場合、音符の形状と五線譜上の音符の位置を見れば、瞬時にどの音なのかを頭の中に描けるしメロディーを音符で記述することもできる。ただし、それには慣れるための時間や訓練が必要だ。Music Blocksの場合、楽譜という記述方式を使わず、算数的な理解を音の記述に使うので、楽譜の読み書きができなくても音楽を記述できる。
ただし、Music Blocksは、簡単に音楽作りをするために開発されたツールではない(前回インタビュー記事参照)。Music Blocksのプログラム手順は、音の長さや高さといった理屈を算数的なアプローチで記述することが求められる。表現言語が楽譜の記法ではなくプログラミング言語になっただけで、音符の概念を理解することには変わりない。
楽譜が読めなくても、先にMusic Blocksで音を算数的に音符を扱う経験をしておくと、いずれ楽譜を読む機会が来たときに理解しやすくなる可能性は十分にある。同じ概念でも別のアプローチをすることで理解が深まるわけだ。
きらきら星に合わせて星を描く!
Music Blocksは、音楽の機能だけでなく、ネズミのキャラクターをプログラムで動かして、その軌跡で線を描画することができる。子どもたちは、きらきら星のプログラムに合わせてネズミを動かし図形を描画することに挑戦した。例えば一筆書きで星の形を描くには、「前に進んで144度向きを変える」という動きのパターンを5回実行すればいい。そのため、「前に進んで144度向きを変える」指示を「アクション」としてセット化しておき、音符ブロックごとにこの「アクション」を実行させるようにプログラムすれば、音に合わせてネズミが動き、その軌跡が星を描いてくれる。
見本は星の形からスタートしたが、ここから先は、あっという間に子どもたちの創意工夫が始まった。角度を変えるだけで描画される形は変化するし、線の色や太さを変えるだけでもかなり印象が変わる。また、適当な動きを「アクション」化してみても構わない。複数回実行してみたら想像していなかった、すてきな図形が描画できることもある。
進行中に、何人かの作品が大きなスクリーンで紹介された。子どもたちは、声には出さなくても「あれやってみたい!」と感じたら、静かにどんどんその手法を取り入れてアレンジして自分の技にしていく。特に、ネズミを複数登場させてたくさんの星を描画した作品や、線の色をどんどん変更してレインボーカラーに描画していく作品を見たあとは、自分のプロジェクトに取り入れている子どもが多かった。
「マネ」というとマイナスイメージを持つ人もいるかもしれないが、こうした模倣は学びの大切な過程だ。後半になるにつれ、「あれやってみたい!」「自分はもっと違うものを作れる!」という気持ちが静かに各作品ににじんでくるのを感じた。
モデル授業全体として、内容の分量に無理がなく、子どもたちもゆったり自分のプロジェクトに取り組めたようだ。