学校や教科を越えて共有し合い、自らの学びを広げる
「192Cafe(いちきゅうにカフェ)」の「192」という数字は、設立時の2018年、日本私立小学校連合会に加盟していた私立小学校の数に由来しているという。コミュニティの発足以降、全国の私立小学校の教員が学校や教科の壁を越え、ICTを活用した「未来の学び」について情報を共有し、オンラインでの事例発表会などを通じてネットワークを広げ、自らの「未来の学び」に役立てている。
イベント冒頭の講演では東京の宝仙学園小学校の教員が登壇し、その後の分科会では計8校がそれぞれのICT活用事例を発表するという、密度の濃い内容となった。
学習者中心の学びを10年計画で目指す宝仙学園小学校
最初に発表を行った宝仙学園小学校は今回のイベントを主催し、立案も担当している。「歴代の研究部主任3名と、その奮闘を一番近くで見守り支え続けてきた教頭」として、同校の正路進教頭、現在研究部で主任を務める中村優希教諭、理科専科でICT教育研究部主任の吉金佳能教諭、2年生担任の加藤朋生教諭(いずれも2021年度における役職)の4名が登壇。講演は明るく和やかな雰囲気で、先生同士の仲のよさが感じられた。加藤教諭は2021年3月をもって同校を退職することが決まっていたため、まさに同校が7年間にわたって取り組んできたICT教育を振り返る総括的な発表となった。
テーマは「3級から2級への挑戦 ~授業を変える・学びを変える・組織を変える~」。まず加藤教諭が、2015年から研究部を立ち上げICT活用を進めてきた宝仙学園小学校の取り組みを振り返り、同校のICT教育アドバイザーである平井聡一郎氏に「『君たちの授業は3級だね』と言われたことを悔しく思った」というエピソードを披露。それを受け、吉金教諭が「3級という言葉は『まだまだ乗り越えるべき壁がある』ということ」ととらえ、理由を探っていったことを明かした。
その結果「2級は学習者中心の学び」という答えにたどり着き、「これまで本当に子ども自身に選択肢はあったのか、子どもの学びは深まったのか」と自らに問いかけたという。そして「これからの教育には子どもが自己選択・自己決定する学びが必要。そのためには授業デザインを変え、教員の役割も問い直す必要がある」という考えに至ったことを話した。
この話を受けて、2021年度から研究主任となった中村教諭が登壇し、「壁を乗り越えるためには『当事者意識』が重要だが、教員ごとに当事者意識は異なっているため、同じ方向に進みづらいという課題があった」と振り返る。そこで、10年間の長期的な研究計画として「10年後の『宝仙にしかない学びの創造』」を目指し、具体的な共通言語として「ディプロマポリシーとキーコンピテンシー10」を明示。また、共通言語を使う場として、毎週チームミーティングを設けて各自のテーマで研修を進め、その成果を公開授業研究会で発表していくという。
最後に正路教頭が登壇し、「課題はたくさんあるが、成果もある。全員でスタートラインに立つということがもっとも大切」と話した。さらに「ICT活用や教科横断といった共通言語が育ち、ICTを文房具として考えられる土壌づくりが研究主任によってつくられ、校内に行き渡ってきた」と、これまでの成果を伝えた。6月25日には、同校の全教員による教育カンファレンスも開催される予定だ。