「教育×インターネット」のキーパーソンが対談
角川ドワンゴ学園 N高等学校(以下、N高)は2016年に設立された広域通信制高校で、授業やレポート、テストなど全てでインターネットを活用している。設立時は1500人程度だった生徒数は現在10倍の1万5000人を超え、「好きなことを好きなだけ学べる学校」として存在感を示している。具体例の1つとして、コミュニケーションツール「Slack」を活用し、興味や趣味などのテーマ別に約7000のチャンネル数が立ち上がっていることが挙げられた。
ヨビノリたくみ氏は東京大学大学院卒業のYouTuber。予備校講師の経験からYouTubeチャンネル「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」(略称:ヨビノリ)を立ち上げた。チャンネル登録者数は50万人を突破、複数の大学でヨビノリたくみ氏の動画を授業の参考資料に使っているという。
「やっぱり勉強しないとだめ?」
モデレーターを務めたnoteディレクター 中野麻衣子氏が最初に2人に投げたテーマは「やっぱり勉強しないとだめ?」だ。
「勉強嫌いはインターネットで解決できるのか?」と中野氏が言い換えると、ヨビノリたくみ氏は「小中学校の勉強嫌いは本当にその科目が嫌いなのではなく、学校の先生と合わないといった理由が多い」と述べる。「インターネット時代になり、YouTubeにいる大勢の先生の中から自分に合う先生が選べるため、早期段階での勉強嫌いは克服しやすいのでは」と回答した。
一方、N高の吉村氏は「勉強は贅沢なこと」と口火を切る。それに費やすお金や時間などを考慮すると「贅沢」ということのようだ。「勉強は苦労ではなく、自分が知りたいことを知ること。目的がない勉強はしたくないならしなくていいのでは?」と吉村氏。アドバイスとして「『何のために勉強するのか? どんなことをやりたいのか、知りたいのか?』にフォーカスを置いて、本当に勉強が必要かを考え、自分の意思で勉強することがいいのではないか」と続けた。
では、目的を見つけることが難しい場合はどうすればいいか。吉村氏は「自分自身が好きなもの、得意なことを見つけ、最終的に社会に関わる際にどのようになりたいかの『像』を見るけることが重要」と述べ、「社会を知ること」の大切さを説いた。なお、N高ではさまざまな職業の人を招いたり、職業体験ができる機会を作ったりしているという。
ヨビノリたくみ氏のYouTubeチャンネルは大学生向けの授業を発信しているが、きっかけは自身が大学に入ると授業がわからずにその教科が嫌いになる例をたくさん見てきたからだ。つまずきの原因は「授業がわかりにくい」こと。そこで、予備校講師の経験を生かして始めたというが、蓋を開けてみると、狙っていた大学生だけでなく、先取り学習や学び直しなど、実に幅広い層が視聴していることがわかった。
「メインのターゲットの大学生に相当する年齢層は40%、20%は中高生の年齢、残りの40%は大学を卒業した年齢。自分の想定よりも上の年齢の人が多く見てくれている」とヨビノリたくみ氏。想定外の1人に、小学4年生ながら大学数学レベルの実用数学技能検定1級に合格した少年もいる。当時9歳、過去最年少での合格だが、勉強はほとんどYouTubeでやっていることにヨビノリたくみ氏自身も驚いたという。
当初、ヨビノリたくみ氏が日本の理系大学生の人数から割り出した計算では、潜在視聴者は2万人程度を想定していた。現在はそれを大幅に上回り、先述の通りチャンネル登録人数はすでに50万人を超えたが、「数字を追うことはせず、今後も内容を追求していきたい」と話す。