多くのアイデアが反映された3つのプロトタイプが完成
ワークショップの最後は、各チームによるプレゼンテーションです。Adobe XDでは「デスクトッププレビュー」機能を使い、各アートボードの内容をアプリ画面に模した形で表示し、実際の操作に応じた画面遷移をシミュレーションすることができます。プレゼンテーションは、各チームの代表者により、このプレビュー機能を使って行われました。
Aチームのアイデアは「状況把握をサポートするアプリ」です。GPSで把握した現在地の情報と、周囲の地図情報、気象庁が出している気象データなどのリアルタイム情報を組み合わせて利用し、ユーザーが今、取るべき行動を提案します。ポイントは、ユーザーが自分の状況を把握するにあたって「質問にイエスかノーで回答する」という分かりやすい仕組みを導入している点です。また、自分の身の安全が確保できた後で、家族間で安否情報を共有できる機能なども取り入れています。
Bチームのアイデアは「みんなでつくる防災アプリ」でした。近年起きた災害において、公式情報よりもSNSなどで発信された情報のほうが、現場での判断に役立ったという事例に着想を得たといいます。プロトタイプには、地図上に現場の状況を直接投稿できる「みんなで作る防災マップ」や、事前にアプリへ登録しておいた人たちの安否情報や最終確認場所を共有できる機能、避難場所に関する公式情報と、その避難場所にいる人たちが発信する情報を統合表示できる機能などが盛り込まれました。
Cチームでは、テンプレートにあらかじめ含まれていた「防災マップ」「安否確認」「最新の災害状況」「防災を学ぶ」といった項目ごとに、どこから得た情報をどのように表示すれば便利かというアプローチでプロトタイプを作りました。チームで独自に追加したのは「支援・ボランティア情報」に関する項目です。この項目は、災害発生後の被災地各所で、不足しているものやボランティアに関する情報を集約し、より早い復興を支援するためのものになります。現在は、新型コロナウイルス感染症の影響で、復興支援ボランティアの募集や参加にも、コロナ以前とは異なる配慮が求められます。そうした状況を加味した上で、支援を求める側と支援したい側とをつなぐ仕組みとして、発展が見込めそうなアイデアでした。
今回のワークショップは、あくまでも「アイデアをプロトタイプ化する」過程の体験を目的としたものですが、各チームが作成したプロトタイプには、わずか1時間弱のグループ作業の中で生まれた、発展が期待できそうな多数のアイデアが反映されていました。
境氏は「今回体験していただいた、Adobe XDによるプロトタイピングは、あくまでもグループで意見を集めて、その中にあるアイデアを確かなものにしていくための最初のプロセスです。より上級の内容になりますが、他の開発ツールなどと組み合わせながら、このアイデアを実際のWebサイトやアプリとして作り上げていくこともできます。また、オンラインでのグループワークは、システムや回線のトラブルなども起こりがちですが、実際に経験を重ねることで、オンラインならではの新しいグループワークの進め方が見えてくると思います。今回体験したことを、ぜひ授業で役立てていただければと思います」と述べて、ワークショップを締めくくりました。
オンラインならではの「新鮮な体験」が情報Iの授業スタイルを変える
今回のワークショップでは、Zoomのチャット機能を使って、参加した先生方のコメントや質問を受け付けていました。グループワーク後には「オンライン実習の可能性を感じられた」「オンラインで同じ画面を見て、話しながら協働制作というのはとても刺激的な体験だった」との感想が多数寄せられていました。
研修終了後に、Aチームでグループワークに参加した、筑波大学附属駒場中学校・高等学校の植村徹先生と、兵庫県立西宮今津高等学校の白井美弥子先生にお時間をいただき、研修の感想をお聞きしました。
既にオンライン授業化を進めているという筑波大学附属駒場中学校・高等学校の植村先生は、「『プロトタイピング』という言葉は聞いたことがありましたが、それが情報Iで扱う『情報デザイン』とどのようにつながるのかは、十分に理解できていませんでした。今回、短い時間でしたが、実際に他の人とディスカッションしながら、もやもやした考えを形にしていく過程を体験して、理解を深めることができました」と話してくれました。
また、兵庫県立西宮今津高等学校の白井先生は、「ZoomとAdobe XDを同時に使って他の人と何かをやるというのは初めてでしたが、会話による議論とAdobe XD上での作業が、どちらもリアルタイムで全員に共有されるというのは、新鮮な体験でした。情報Iでは、HTMLやCSSのようなサイト構築技術の基礎についても扱いますが、今回体験した情報デザインに関わる内容とつながるような授業の進め方も考えられると思います」と、ワークショップの内容を評価していました。
Adobe XDを使った授業展開については、植村先生も「Adobe XDの素晴らしいところは、スマホアプリに模した画面遷移でのプレビューが行えるところです。こうした形で自分たちが作ったものが表示されると、生徒たちのノリも違います。『防災アプリを作ろう』自体も良い教材ですが、Adobe XDによる成果物をWebで共有できるような形にすれば、文化祭などさまざまな機会でクラス展示などにも応用できるだろうと思います」と、他の学習機会への応用にも期待を述べていました。
今回のワークショップを通じて「作りながら考え、考えながら作る」ことを体験した多くの先生方が、「情報デザイン」の意義や楽しさを授業の中で生徒たちに伝えることで、情報科は、生徒たちにとっても、さらに意義深い学びの場になっていくのではないでしょうか。