noteのオンラインイベント「多様性を後押しするN高×note共同イベント #これからの教育」では、角川ドワンゴ学園理事の川上氏、N高副校長の吉村総一郎氏、noteの加藤氏、そしてCXOの深津貴之氏が、N高の取り組みを通じ、将来の教育について語り合った。
学校は社会に適応するための場所
N高は広域の通信制課程を持つ私立高校で、授業は基本的にオンラインで行われる。コミュニケーションツールである「Slack」のチャンネル上で、全校のお知らせを通知したり、クラス内で連絡を取りあったりするなど、インターネットをインフラとしてフル活用している。なお、Slackのチャンネル数は6000以上存在し、興味関心のある生徒同士が集まってSlackのチャンネルを次々と作っているそうだ。物理的な施設は本校が沖縄にあるほか、東京、大阪など全国各地に19カ所のキャンパスを抱える。
どのような生徒が通っているのか? 慣習的に通信制が受け皿となってきた不登校の生徒については、「初年度は多かったが、現在はそれ以外の生徒も多い。ネットで学べることが選択肢になってきており、志望校として選ばれている」と吉村氏は言う。
入試に類するものはない。「基本的には来るもの拒まず」(吉村氏)だが、プログラミング専門コースには適性を見るためのテストがあるという。しかし、「学力や偏差値で不合格とするようなものではない」と吉村氏。
これを聞いた加藤氏は、「全員が入れる学校ってすごい。学校が入試で不合格にする理由は校舎という物理的限界があったから。画期的ですよね」と感想を述べた。
一方で、川上氏は「『誰でも受け入れる』とはうたっていない。それは逆に不誠実だと思っている」と念を押す。「学校は社会に適応するためにあると思っている。そこで(学校が)目指さなければならないのは、抱えた生徒を一人前に自活できる大人に育てること」とミッションを説明した。
自立の方法はさまざま「東大に行きたい人は行けばいい」
「自立」の方法はさまざまで、プログラミングはその1つだ。「僕らが得意なものが中心になっている」と川上氏。「ドワンゴは社会不適合者が多くて(笑)、プログラミングさえできれば一人前だし、社会の中で活躍できるというのが僕らの中で成功体験としてある」と続けた。
吉村氏も、「社会に出て活躍できる武器を得て踏み出せるようにしているが、その武器は全員が同じものではない。多種多様な武器を作ることを目標にしている」と述べる。
それを実現するために、教員はWeb会議システムの「Zoom」などで面談のやりとりを重視しているという。約200人いるという教員側も、海外とのプロジェクトが得意な人、アート系、ダンスやスポーツに詳しい人とさまざまな人がいるとのことだ。アルバイトやTA(ティーチングアシスタント)を入れると、1000人の規模だという。これを聞いた加藤氏は、「1万5000人を1000人で面倒を見るということは、生徒1人あたり15人――普通の学校よりきめ細かい指導が可能」と驚いた。
実際の指導の中には、プログラミングなど特定のジャンルに特化したコーチングサービスもある。週1回30分程度で、プログラマーとして活躍しているエンジニアや大学生から1対1で指導を受けることができるという。
大学進学を目指す生徒もいる。2020年度大学入試では、東京大学や京都大学など、難関と言われる大学の合格者も出た。
川上氏は「生徒が望むものを提供する」とスタンスを説明、「東大に行きたい人は行けばいい。そこに行かないと入れない世界もある」と言いつつも、「どうして東大に行くのかという理由は考えてもらいたい」と付け加えた。「単純に理系で高い報酬が欲しい、AI時代でも失業しない仕事に就きたいと思っているのなら、プログラマーのほうがいいよ、とは伝えたいが」と川上氏が言うと、吉村氏は、「『東大の情報科学でCPUの実験をやりたい』など明確なモチベーションを持っている生徒もいる。それはサポートしてあげたい」という。
例えばある生徒の場合、AIを使ったプログラムを作るために大学レベルの数学が必要とわかり、高校数学だけでなく、中学で学ぶ数学までさかのぼって学習・復習し、「短期間で全ての数学を習得して大学レベルの数学を超えるところまできた。目的がある学びは習得も早い」という。