「10人に1台」のICT環境からスタート
兵庫県尼崎市は人口45万人の中核都市で、兵庫県の中では最も大阪寄りに位置し多くの工場がある。「工業都市として発展してきたこともあり、地方から働きに出てきた勤労青年も多く、働きながら学ぶという環境を大事にしてきた」と、松本氏は話す。
松本氏によると、尼崎市内の学校のICT環境は兵庫県内で下から数えて5~6番目と、あまり整備されていない状況だという。沿岸部の工業都市のため地盤沈下対策などに経費がかかり、なかなかICT環境の整備にまで手が回らない。結果としては、教育用コンピューターの1人あたりの台数は約10人に1台で、兵庫県の平均である6.1人に1台(全国41位)と比較しても低い水準となっている。
休校中の危機感の中、ICT活用のメリットとデメリットを整理
そんな中、臨時休校の要請があり「休校期間をどうするかが大きな問題だった」と松本氏は振り返り、5月までの3カ月間の取り組みについて、悩みながら試行錯誤した経緯を共有した。
「まず、3月はほとんどの学校が学習面で『復習』の段階に入っており、少し早い春休みという認識の人が多かった。この時期の学校で主な焦点となっていたのは、間近に控えた卒業式や成績処理、学校預かりや感染者が出た場合の対応などだった」と松本氏は話す。
そして4月7日、全国へ「緊急事態宣言」が発動される。「4月の半ばには『5月の再開も難しいとなった際、学習支援を本格的に考えなければまずい』という『危機感』が出てきた。どの自治体も学習補助を本気で考えていたが、横浜市など4月初頭かいち早く動いている教育委員会もあり、内心は焦っていた」と松本氏は当時の心境を語った。
そこで、松本氏はICT活用のデメリットとメリットを整理した。
「動画作成は魅力的だが、コンテンツと質の確保をするためには多大な労力がかかる上、果たして現場が使ってくれるかわからない」という懸念のもと、「民間のコンテンツを集めたほうが良いと判断した」と話す。そして、4月前半は既存のコンテンツを使い、いわゆる「動画のまとめサイト」を作成し、教育委員会のWebサイト内で公開した。