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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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EdTechビジョナリーインタビュー

AIの「アタマ先生」が一人ひとりの学習を最適化! atama plusの稲田大輔氏がその先に目指す「笑顔があふれる日本」とは?

EdTechビジョナリーインタビュー 第9回

 革新的なAI教材として注目を集める「atama+(アタマプラス)」。AIが生徒の学習状況を分析し、一人ひとりに合わせた「専用カリキュラム」を自動的に作成し提供することで、学習効果を飛躍的に高められるという。個別指導塾を中心に予備校や私塾に導入が進み、創業より2年で500教室を突破した。開発・提供を行うatama plus 代表取締役の稲田大輔氏は「日本の教育は世界に比べて遅れている。150年間も変わっていない状況にイノベーションを起こしたい」と意気込む。その言葉に込められた「本当の目的」とは何か、そして「変わる」ためには何が必要なのか、お話を聞いた。

日本に笑顔を増やしたくて、教育を変える仕組みを創った

atama plus株式会社 代表取締役 CEO 稲田大輔氏
atama plus株式会社 代表取締役 CEO 稲田大輔氏

――atama plusが提供する「atama+(アタマプラス)」は、AIを活用して学習効果を高める教材として各方面から注目を集めています。どのような経緯でスタートされたのでしょうか。

 2017年4月創業なので、ようやく2年5カ月が経過したところです。創業メンバーは3人で、いずれも大学時代の同期生です。その1人の、中下真は子どもの頃から先生になるのが夢で、教育学部からリクルートに入社して、リクルートホールディングスの社長秘書やリクルート中国の社長も務めました。もう1人、私と同じく情報理工学専攻で現在、技術を統括する川原尊徳は9歳からプログラムを書いていて、大学卒業後はMicrosoftでHotmailの開発に携わり、データサイエンティストを経験しています。2人とも順風満帆にキャリアを積んでいたのですが、いろいろと話をするうちに起業しようということになり、合流してもらったのです。

 私も、学生時代は川原と同様にエンジニア志望でした。しかし、在学中に「仕組みとしてのビジネス」にも興味を持つようになり、三井物産へ入社しました。そして次第に教育分野に取り組みたい気持ちが生まれ、6年目に新規の教育事業を立ち上げたのです。その中で、ブラジルでベネッセさんと合弁会社を興したり、海外のEdTech企業の出資責任者となって出資先の役員としてブラジルの教育改革に携わったり、さまざまな経験をさせてもらいました。

――テクノロジー、そしてビジネスと興味を持たれていた稲田さんが三井物産入社後に教育に関心が向かったのは、何かきっかけがあったのですか。

 これは三井物産に入社した理由でもあるのですが、大学のテニスサークルで「笑顔」のすばらしさを実感し、「笑顔を増やす仕組み」をつくりたいと思ったことでしょうか。もともとサークルでは「勝つこと」を目標にしており、それを突き詰めて考えたら、「楽しくないと勝てない」ということに気づいたんです。笑顔があふれる場には参加者も支援者も集まり、プレイヤーのモチベーションが上がって、結果として試合でも勝てるようになる。そこでお笑いコントなども企画するようになったのですが、試合の結果以上に、笑顔にあふれている場がつくれたこと、身を置けたことが本当にうれしかったのです。

 三井物産では新規事業を担当し、たくさんの仕組みをつくりましたが、まだまだ「笑顔を増やす」ことには貢献できていないと感じていました。当時、日本はGDP2位の経済大国ながら自己肯定感が低く、「自分が幸せ」と答える割合も少ないとされていました。その真逆の国がブラジルで、貧富の差が激しく、経済的には厳しいのに「幸せ」と答える人の割合がすごく高い。そこで「笑顔の原点を追求したい」と言ってブラジルに派遣してもらったのです。ポルトガル語を習得し、恋愛し、カーニバルにも参加して、ブラジル人になりきるうちに、ブラジル人は自己表現力などが高く、日本と幼少期の過ごし方がかなり違っていることを知りました。

 「カギは『教育』にある」と気づき、ブラジルの高校に3カ月ほど通ってみたところ、教育のあり方がまったく違うことに驚かされました。例えば「自分が何をやりたいか」を大切にしていて、グループワークで協力し合うことや、プレゼンテーションなどにも力を入れていました。そこで教育事業の立ち上げや出資などにも取り組みました。大企業のリソースを活かせる恵まれた環境にありましたが、枠の中で取り組むよりも、自由な環境下でまったくのゼロからつくったほうがいいのではないかと次第に感じるようになり、起業することにしたのです。

 日本に戻ってきて、EdTechの認知度の低さに改めて驚かされました。むしろ間違った意味で広がっている印象があったのです。ちょっとしたeラーニングや教科書をスキャンするといった小手先の利用が多く、「テクノロジーをしっかり使って変えていく」ことができていない印象でした。だからこそ、基礎学力を大切にしてきた日本の教育の良さを、テクノロジーを活用することで最大限に高められるのではないかと可能性を感じたのです。非効率な学習方法を変えれば世界をリードできるのではないか。まずはそこから改革できればと考え、「atama+」の開発へと至りました。

「これからの社会で活躍できる力」を身につける教育とは?

――世界の教育をご覧になってきた稲田さんから見て、これからの日本にはどのような教育が必要だと思われますか。

 教育を「幸せに生きていくために身につけるべきこと」と定義すると、自分の能力を発揮して社会で活躍できるほうがいいですよね。となると、これからの教育には、これからの社会で活躍できる能力を育むことが求められます。

 実際、現在の日本の繁栄は、教育と社会システムがぴったりと一致していたからです。例えば明治時代最先端の職場である富岡製糸場では、マニュアル通りにきちんとミスなく仕事をこなす人が「できる人」でした。教育においても、共通の課題で正解をきちんと導き出せる人が望ましいとされてきたわけです。

 しかし現在、世の中に貢献している企業の顔ぶれは大きく変わってきています。例えばGoogleなど、多様な価値観や文化を持つ人が集まってアイディアを出し合い、協力して新しい価値を生み出す企業が大躍進を遂げています。そこでは同じことをするよりも、独創性や創造性が重んじられ、自分と考え方が異なる人ともうまくコミュニケーションできる能力が求められています。

 これだけ社会や企業が変化して、最先端で活躍できる人が変わっているのに、教育の現場は150年前とほとんど変わっていません。先生が一方通行で正解を教え、生徒は同じ内容を受け身で聞いている……これって、富岡製糸場で量産する人を生み出すための教育と同じですよね。これからの社会や企業で活躍できる力を身につけることができるのか疑問です。

 では、どのような教育が必要なのかと考えると、既に多くの国で始まっている新しい学びのスタイルがヒントになるでしょう。ブラジルは多くの日本人が想像する以上に進んでおり、普通の公立学校に通う生徒がタブレットやスマートフォンを使い、一方通行の座学ではなく、一人ひとりに応じたアダプティブラーニングやグループワークで学んでいます。

 日本の教育に対する評価は決して低いわけではありません。クラス運営や掃除、部活動などを通じた教育手法はユニークとして世界的にも評価されています。しかし、残念ながらテクノロジーの活用においては断然遅れており、授業内容としても従来型の基礎学力向上を目的としたものが多く、大きな危機感を抱いているというのが正直なところです。

 近年、文部科学省も英語の4技能やプログラミング教育、総合学習の活性化など、さまざまな改革や提案を行っていますが、「学ぶべきもの」が増えて現場の先生の大きな負担となっています。かといって、国語や数学などの基礎学力もまた社会でいきるために必要であり、捨てるわけにはいきません。そこで、テクノロジーを活用して、基礎学力の習得にかかる時間を圧縮し、創造性やプレゼンテーション力、コミュニケーション力などの「新しい社会でいきる力を育む時間」を生み出そうというわけです。

 私たちは、子どもたちの笑顔を生み出すためにも「基礎学力習得の効率化」と「社会でいきる力の習得」の仕組みを両方提供していきたい。しかし、スタートアップとしてのリソースは限られています。まずは「基礎学力習得の効率化」に集中し、教育改革の第一弾として「atama+」を提供して、プロダクトとしてとことん磨き上げていきたいと考えているのです。

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「atama+」で基礎学力習得を効率化し、新しい学びの時間を創出

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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